私たちが対峙するべき「アダプティブ・チャレンジ」とは?:頼りながら、避難しながら、痛みを乗り越えろ(2/4 ページ)
組織論、経営戦略論の研究者である宇田川元一さんへのインタビュー連載の後編では、変化の激しい現代社会に生きる私たちが持つべき「アダプティブ・リーダーシップ」や、一時避難できるサードプレイスの重要性など、未来の組織にまつわるさまざまな話題を紹介する。
これからの組織に必要な「アダプティブ・リーダーシップ」
宇田川: 組織論を扱っていると、よく「理想の会社組織とはどんなものですか?」と質問されることがあります。でもね、「これが完璧な設計です」と言える組織などは、存在しません。「完璧」と思い込んでるものほど、不完全なものはないのです。
人や社会の変化に伴って、組織には日々新たな問題が生まれます。それを常に表に出し続けて、皆で「今に適した組織の形ややり方」を考えられるのが、いい企業の在り方ではないかなと思います。
WORK MILL: 時とともに変化し続ける柔軟性が、組織のキモになると。
宇田川: 組織にはもちろん、個人にとっても、ですね。ハーバード・ケネディスクールの上級講師であるロナルド・A・ハイフェッツは、『最前線のリーダーシップ』にて「これからの組織において重要なのは、アダプティブ・リーダーシップだ」と述べています。
WORK MILL: アダプティブ・リーダーシップ?
宇田川: ハイフェッツは、企業にとっての課題を「技術的問題(テクニカル・プロブレム)」と「適応課題(アダプティブ・チャレンジ)」に分けました。ここまでの話で言えば、前者は量的な問題で、後者は質的≒多義性の問題のことですね。別な側面から言うと、適応課題は変えようとすると痛みを伴う問題です。この後者の課題に対応することが「アダプティブ・リーダーシップ」です。
彼はアダプティブ・リーダーシップにおいて「観察・解釈・介入のサイクルを回せ」と言っています。「いま何が起きているのか、相手が何を考えているのか、それはなぜか」をよく観察し、得られた情報を解釈した上で、取るべきアクションを考えていけと。このプロセスでは、対話と翻訳の能力がポイントになります。
WORK MILL: 翻訳、ですか。
宇田川: 翻訳とは「相手のメッセージを、相手のコンテクストを理解して読み解くこと」であり、また「相手のコンテクスト上で、こちらのメッセージが“意味のあるもの”になるよう調整して送ること」です。
言葉の意味だけをなぞっていても、人の真意は理解できません。相手の発言内容だけでなく、置かれている状況や、言外に発しているシグナルも含めて「伝えようとしていること」をくみ取る努力をする。そしたら今度は、相手にこちらの意図が誤解なく伝わるような言葉を選び、目線を合わせて語りかける。
“対話”の中で丁寧に翻訳を行ないながら、自分の悩みや課題を共有できるリーダーは、強い存在ですね。こういったアダプティブ・リーダーシップを持った人物が増えることが、恐らく今の日本の企業社会に強く求められていることだと感じます。
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