私たちが対峙するべき「アダプティブ・チャレンジ」とは?:頼りながら、避難しながら、痛みを乗り越えろ(3/4 ページ)
組織論、経営戦略論の研究者である宇田川元一さんへのインタビュー連載の後編では、変化の激しい現代社会に生きる私たちが持つべき「アダプティブ・リーダーシップ」や、一時避難できるサードプレイスの重要性など、未来の組織にまつわるさまざまな話題を紹介する。
人任せにしない。新しい物語をつくるのは自分から
宇田川: 翻訳のくだりで思い出したのですが、知人の社内起業家が「従業員の仕事は、経営者に夢を見させることだ」と言っていて、とてもいい言葉だなと思いました。自分のやりたいことを、経営者が「それいいね!」と思えるように提案して、資源を配分してもらうんだと。
WORK MILL: それも立派な翻訳、というわけですね。
宇田川: 会社に所属するというのは、例えるなら「経営者が運転する車に乗っている」ような状態です。そこに自分が載せたい荷物を持ち込もうとするなら、その車に合うように荷物の量や形を調整しなければなりません。セダンに乗っているのに、2tトラックでも運びきれないような規模の事業提案をしても、通るわけがないんですよ。
WORK MILL: 乗せてもらっていることに、自覚的になる必要があると。
宇田川: 生活を支えるという形で会社は自分に貢献してくれてもいるわけなので、会社に貢献する内容であることは大前提になる。もちろん、貢献も短期的から長期的までありますが。会社に何らかの形での貢献と自分のやりたいことの接点を見つけていかなければ、仕事にならんのですよ。当たり前と言えば当たり前なんだけれど、働く現場でこの視点が抜けている人は、結構多いのではと思います。
企業と個人のバランスがおかしくなってくると、組織はうまく機能しません。なぜそうなってしまうかと言えば、情報の非対称性が崩れたことによって、皆が会社の提供している物語を信用しなくなっているから。その気持ちはすごく分かる。だけど、不満を募らせるばかりでは、何も変わらないのです。
WORK MILL: 新しい物語を、自分たちでつくっていかなければならない。
宇田川: 確かに、すごくいろいろな変化が劇的に起きていて、そんな悠長なことをと思うかもしれないのだけれど、焦っても何も生み出せないのです。ある意味でその焦りは、目の前のことに圧倒されて、自分の大切にすべきものを見失っている状態とも言えます。自分にとって観察されるさまざまな変化がどのような意味があるのかをもう一度立て直さなければ、その語る言葉が相手に響くこともないでしょうし、相手の反応をちゃんと観察できないでしょう。
変革をしたいのならば、忘れてはならないのは、変革のための変革にならないように、大切にしたいものは何か、それを守るために何を改めるべきか、という観点から考える必要があります。言うなれば、自分たちの物語の何を守り、どう改め、新しい物語を紡いでいけるかを冷静に見極めなければならないのです。
WORK MILL: それは会社の中の誰の仕事でしょうか。
宇田川: もちろんトップも変わらなければいけない。これは当然のことです。だけれど、まずは可能な範囲で、自分自身を改めなければなりません。中間管理職でも現場でも、それは皆同じです。それぞれの立場から変えていけることが、きっとあるはずです。
WORK MILL: 一人一人が、アダプティブ・チャレンジに向き合うべきときなのですね、今という時代は。
宇田川: ハイフェッツは『最前線のリーダーシップ』の序文で、「アダプティブ・チャレンジはキツいぞ、危険だぞ? それでもやる気か?」と脅してくるんですよ(笑)。けれども、僕にはアダプティブ・リーダーシップが「仕事を楽しむための秘けつ」のように思えるんです。彼は危険だと言いつつ、そこを突破していく難しさ、難しいがゆえのやりがいや面白さを、著書の中で雄弁に語っています。
だからこそ、現状の企業の組織や体制に不満を持っている人には、解決されるのを待つのではなく、ぜひ攻めてほしい。「今は疲れていて、攻める元気がない」という人は、まず休んでください。大いに休んで英気を養って、アダプティブ・チャレンジに臨んでいただきたいのです。誰かが挑まない限り、その課題が自然に消えることはありませんから。
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