恵方巻きという「伝統」を作ったのは誰か 販促キャンペーンの死角:廃棄問題でゆれる(3/3 ページ)
華々しい宣伝の一方、廃棄問題にも揺れる恵方巻き。本来は大阪の一部の風習にスーパーやコンビニが目を付けキャンペーンで全国区に。
恵方巻きとは「伝統になってしまった」もの
ただ、ここまで広まったのはやはり小売りによる宣伝の力が大きかったという。岩崎さんによると、他にも流通業界が特定の商品を売るため、一部地域の風習を全国に広めようとする動きはよくあった。例えば、四国に伝わるとされる「節分こんにゃく」という風習を、スーパーが他地域ではやらせようとしたことも。ただ、うまく定着せず広まらなかったものも多かったという。「恵方巻きはこうした取り組みのはしりだった。伝統かと聞かれると、『伝統になってしまった』ということだろう」(岩崎さん)。
流通業界による大々的な販促キャンペーンによって全国に広まった恵方巻き。ただ、大規模チェーンが全国で一斉に同じタイミングで同じ商品、しかも日持ちしない物を売る手法に対しては批判も無いわけではない。
画一的なマーケティングへの疑念
流通やマーケティングが専門で学習院大学経済経営研究所の客員所員、中見真也さんは「小売りが節分の恵方巻きのようなストーリーを作ってイベント化し、少しでも売り上げを伸ばそうとする自体は良いこと」としつつも、「関西は恵方巻き文化圏だが関東は違う。全国チェーンだから全国でマーケティングを画一的にやる、という手法は、食品廃棄の点からはあまりよくないのでは」と指摘する。
流通各社は地域ごとの恵方巻きの廃棄率について基本的に公開していないが、Mizkanの調査によると喫食率は発祥とされる大阪がある近畿で高く、“伝来”が遅れた東日本では比較的低い。中見さんは「セブン‐イレブンなどコンビニ業界は今、エリアマーケティングを進めている。関東なら関東の風習にマーケティングを合わせてもいいのではないか。それでも恵方巻きを全国で売り込みたいなら、売り切るか、売れなかった商品を有効活用する方法を工夫するべき」と話す。ちなみに、廃棄ロスを巡ってはコンビニ各社が予約販売をアピールするなどの対策を打ち出している。
流通業界のキャンペーンとして広められていった恵方巻き。節分当日、各社の華やかな宣伝や趣向を凝らした商品を積極的に楽しむのも、「うちにそんな習慣はないので」と見過ごすのも消費者の自由だ。ただ、なぜ流通業界がここまでして「作られた伝統」を売り込もうとしているのか、その起源から考えてみるのも悪くないかもしれない。
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