“転職ブーム”に踊らされる人が「浅はか」である、これだけの納得理由:今ダメな人は、どこに行ってもダメ(3/5 ページ)
売り手市場が続き、企業が中途採用に躍起になる今、街やネットの至る所で求人広告を目にするようになった。それを受け、「年収が低い」「上司が嫌いだ」などの理由で転職を検討する声も多い。ただ、そんな悩みは、会社を変えることで本当に解決するのか。本当に転職すべき人と、そうでない人にはどんな差があるのか。東京・銀座の“転職バー”で多くの社会人の相談に取ってきた、マスターの鈴木康弘さんと常連客に話を聞いた。
バー常連の人事部長「こんな人は採用しない」
――このバーの常連で、都内の某大手企業で人事部長を務めるXさんからも、採用する立場の意見を聞かせてください。やはり「現職がいやだから環境を変えたい」「周囲が転職をしているから、何となく」などと考えている人の印象は、やはり良くないのでしょうか。
バーの常連・Xさん(以下「人事X」): はい、そういう人はあまり採用したくないのが正直なところです。不満だらけの人よりも「現職で活躍して実績を挙げているけれど、その地位を捨ててでも入社したい」と話してくれる人のほうが魅力的なのは自明ですよね。「社内でもめて干されたり、居場所がなかったりする人材は、他社でもあまり居場所はない」というのが私の持論です。
私が本当に採用したいのは、「今の会社で期待されていて、仕事をバンバン任されている優秀な人」です。ですが、活躍中の人は転職という選択肢がほとんど頭にないので、マーケットにはなかなか出てきません。ですので、人事は知り合いのつてをたどってリファラル(縁故)採用を行ってみたり、ヘッドハンティングを行ってみたりと、あの手この手で引っ張り出そうと苦労しているのです。
――人材会社に求人広告を出したり、転職エージェントに採用を頼んだりしないのですか。
人事X: 全く使わないわけではありませんが、できれば優秀な人を独自のネットワークで一本釣りしたいのが本音です。転職エージェントの宣伝や、人材会社が製作した求人広告を見たことはありますか? 「残業ほとんどなし」「アットホームな社風」などが多いですよね。これらの広告はまさしく「遅くまで働きたくない」「社風が合わない」などと、不満を持っている人に刺さりやすい文言になっています。
広告の効果なのか、現代のビジネス界ではなぜか、「現職に不満がある人や、転職を考えている人は、まず転職エージェントに相談に行く」という風潮が定着していますが、これもどうかと思います。
「取りあえず転職エージェントに相談」は正しい行動なのか
人事X: 転職エージェントは「人材を転職させることで、入社先の企業から報酬を得る」という収益構造の中で働いているので、相談に来た人を成長させることではなく、速やかに転職させることを第一に考えています。そのため「現職に残って頑張った方がいいですよ」「このままではどこに行っても通用しませんよ」などとアドバイスをする人はほとんどいないはずです。
こうして「不満を持つ」→「転職エージェントに相談する」→「オススメされた会社に安易に入る」→「また不満を持って転職活動を始める」という人が量産されるのです。
鈴木: 人材会社で働いた経験のある私には耳の痛い話ですね……。中には親身になってくれる転職エージェントもいますよ、とだけは言わせてください(笑)。ただ、キャリアに詳しい知人に相談したり、自分が興味のある仕事に就いている人と実際に会って話したりすると、転職エージェントに相談するよりも勉強になる場合があることは確かです。
――転職した結果、「想定していた社風・仕事内容と違う」「前の会社の方が良かった」などと入社後にギャップを感じる人も一定数いるようですが、これを防ぐ方法はありますか。
人事X: そもそも、転職にはリスクが付きまとうものです。やりたい仕事ができるようになって、同僚との人間関係も良好になって、年収も上がって、早く帰れて……などと、何もかもうまくいく保証はどこにもありません。
むしろ、そんな状況の中でも「リスクを承知でチャレンジしたい」「新しいビジネスをやってみたい」と、覚悟を決めて新しい環境に飛び込んでいくのが転職のはずです。漠然と「年収が上がりそうだ」「同僚は良い人ばかりだろう」と思い込んで転職し、後から「聞いていない」「こんなはずじゃなかった」と文句を言うのは、大人のやることではありませんよね。
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