“転職ブーム”に踊らされる人が「浅はか」である、これだけの納得理由:今ダメな人は、どこに行ってもダメ(4/5 ページ)
売り手市場が続き、企業が中途採用に躍起になる今、街やネットの至る所で求人広告を目にするようになった。それを受け、「年収が低い」「上司が嫌いだ」などの理由で転職を検討する声も多い。ただ、そんな悩みは、会社を変えることで本当に解決するのか。本当に転職すべき人と、そうでない人にはどんな差があるのか。東京・銀座の“転職バー”で多くの社会人の相談に取ってきた、マスターの鈴木康弘さんと常連客に話を聞いた。
「転職すれば年収アップ」は本当か?
――「年収」というキーワードが出ましたが、確かに「年収アップ」はビジネスパーソンが転職を考える一大要因です。転職を機に年収を上げられるのはどんな人ですか。
鈴木: その質問に答える前に、「給与の決まり方」の基礎を改めてお伝えしておきます。そもそも給与とは、企業側が社員の実力を評価し、それに応じた形で決められるものです。別に転職しなくても、現職の中で成果を出して昇進・異動をして、できる仕事を新しく増やせば、年収は上がるはずですよね。
――はい、おっしゃる通りです。
鈴木: その一方で、転職をしただけで「仕事の実力が急激に上がる」という人はほとんどいませんよね。それなのに、なぜ人々は「転職すれば年収を上げられる」と思い込んでしまうのでしょうか。
――確かに、そう言われると、われわれは特に根拠のないまま「転職すると年収を上げられる」という“夢”を見ている気がします。
鈴木: 先ほどの質問にお答えすると、同じ業種・業界で、より上位の会社に転職できた場合などは、年収が一定の範囲内で若干上がる人もいますよ。
しかし、同業に年収を上げる形で転職すると、給与に見合ったハイパフォーマンスを即戦力として求められ、「なぜこんなこともできないのか」「年収800万円の仕事ぶりじゃないぞ」などとプレッシャーをかけられるリスクもあります。
一方、転職先で新しい仕事を任される場合などは、スキルを一から身に付ける必要があるため、一時的に年収が下がることも大いにあり得ます。でも、そこからもう一度チャレンジし、できることを増やして年収アップを目指せばいいのです。私も、過去にベンチャーに移った際は年収を半分に下げましたし、このバーを始める際もかなり稼ぎは減りましたよ。
「転職して年収を上げたい」という気持ちはもちろん理解できます。ですが、数十万円程度の“誤差”レベルで年収を上げてプレッシャーの中で苦しむ転職よりも、一時的に年収が下がったとしても、新しい仕事を学んで「年収レンジ」(昇給幅や上限)そのものをステップアップさせる転職の方が、挑戦する意味があると思いませんか?
年収アップに“近道”はありません。待遇を改善する方法は「現職で活躍して、できる仕事を増やす」「新しい職種・業種に挑戦し、入社後にできることを増やす」の2点に尽きるということを給与や転職に悩む人に理解してもらいたいです。
「市場価値」という言葉にだまされるな!
―――たくさんの入社希望者と接してきたXさんの目には、「年収を上げたい」という目的で転職活動をしている人はどう映りますか。
人事X: 年収を上げるために転職活動をしている人の中には、「自分の市場価値はもっと高い」「市場価値に見合った給与をもらえていない」などと思い込んでいる人が多いように感じます。ですが、私はこの「市場価値」という概念がよく分からないのです。
企業には評価制度が存在し、複数の人間が議論して社員の年収や等級を決めます。そんな状況下で、「本当は年収600万円に値する能力があるのに、400万円しかもらっていない」などという人が本当に存在するのでしょうか。
今の時代は、調べれば競合の給与水準はすぐに分かります。そのため企業は、自社の社員を正しく評価し、妥当な給与を支払うことで人材流出を防ぎ、競争力を維持しようとしています。ですので、現代のビジネス界では、「現在の勤務先から支払われている給料こそが人材の価値を表している」というのが私の考えです。
転職を考えている人は、「市場価値」という“魔法の言葉”にだまされないでください。ダメな人は、どこに行ってもダメなままです。鈴木さんの話と重なってしまいますが、年収を上げたければ、安易に環境を変えるのではなく「今いる職場で成果を出すこと」をまず目指すべきです。
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