衰退している熱海になぜ観光客が増えているのか:かつてのイメージは「セレブな街」(2/4 ページ)
いま熱海に観光客が戻り始めている。一時はピーク時の半数まで観光客数が減少していたという。行政としてどのような取り組みをしてきたのか、熱海市の齊藤栄市長に話を聞いた。
プロモーション戦略の転換
12年に観光客数は増加に転じるわけだが、何がきっかけとなったのか。
齊藤市長にも市職員にも「熱海は都心からのアクセスもよく、温泉や海の幸、桜、梅――など、観光地としてこれだけ恵まれた要素がそろっているのに、観光客が集まらないはずがない」という自負があった。
「人が集まらないのであれば、熱海の魅力の伝え方を見直す必要がある」
そんな考えから、それまでの熱海市ではイベント企画による集客が中心だったが、メディア露出を増やすためのプロモーション戦略を強化する方針に転換。「ADさん、いらっしゃい!」と銘打った事業を立ち上げ、市職員が映画やドラマ、バラエティー番組の撮影などを全面的にサポートする態勢を整えたのだ。
企画に合いそうなお店や施設の情報提供や予約、関係車両の移動ルートの調整、関係者の宿泊先の手配に至るまで、市職員ができることは制作スタッフに代わって何でもやる。要望はできる限り断らない。そんな痒い所に手が届く同サービスの評判は口コミで瞬く間に広がって、サポート依頼がどんどん舞い込むようになった。
もちろん、ただ依頼を待っていただけではない。世間ではあまり認知されていない街の魅力を制作側に積極的に周知する“営業努力”も怠らなかった。
例えば、熱海では1〜2月にかけて開花する早咲きの「あたみ桜」を楽しむことができるのだが、以前はそれを見に来る観光客は少なかった。そこで何かにつけて、「もうすぐあたみ桜が開花しそう」とテレビ局に伝えるなどのPR活動を続けた。
「熱海で季節外れの桜を楽しめることを知っていた人は、それまではほとんどいなかったのではないでしょうか。テレビ番組で取り上げられる機会が増えると、あたみ桜を見に来る観光客が明らかに増えました。『ADさん、いらっしゃい!』の効果はあったと実感しています」
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