「ATM」をバカにしてはいけない、知っているようで知らない箱のチカラ:経済学者が解説(4/5 ページ)
大抵の人は、まとまった現金が手に入ると銀行に預ける。よほど金額が大きくなければATMで入金する。銀行預金とATMは生活に密着しているわけだが、私たちはそのスゴさをどれほど理解しているのだろうか。『暗号通貨vs.国家』を上梓した経済学者、坂井豊貴氏が解説する。
国際送金とリップルXRP
国内の送金でも意外とシステム内では手間がかかっている。これが国際送金となると、さらに厄介だ。日本の銀行と、他国の銀行は、共通の決済システムにはつながってないからだ。
現在、世界の多くの銀行は、ベルギーに本部を置く企業「国際銀行間金融通信協会」(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)の、スウィフトという送金システムを利用している。
日本の銀行Aを使う送金人から、チリの銀行Bを使う受取人へ、お金を送ることを考えてみよう。銀行Aと銀行Bの間には、全銀ネットのような共通の決済システムはない。しかし両行を橋渡しできる銀行Cがあるとしよう。銀行Aと銀行C、銀行Cと銀行Bは、それぞれ個別の契約によって決済の仕組みが確立しているのだ。このとき
送金人→銀行A→銀行C→銀行B→受取人
というルートをたどると送金人から受取人へお金が送れる。スウィフトはこうしたルートによって国際送金を可能としている。仲介者が多いぶん費用もかかるし、最終的な送金費用がいくらになるか事前には分からない。完了までの時間が2〜4日かかるのはザラだし、送金の途中で進行の具合も調べられない。
テレックスを知っていますか?
こう言うとスウィフトを非難しているように聞こえるかもしれないが、そのつもりはない。地球上に「世界国家」はないし、「世界通貨」もない。別々の国でバラバラの通貨が使われている以上、国際送金が難しいのは仕方ないことなのだ。なおスウィフトは毎日およそ3000万件の国際送金を扱っている
スウィフトが設立される1977年以前、国際送金はテレックスでなされていた。おそらく読者にテレックスを見たことがある人は、ほとんどいないだろう。現在テレックスは化石のような存在だが、これは文字情報を送受信できるタイプライターのようなものだ(今時はタイプライターを見たことがない人も多いだろう)。送る側が文字を打つと、国際電話の回線を使って情報が送信され、受ける側で印刷される。手作業なので、手間やカネがかかるうえ、ヒューマンエラーがよく起こっていた。これと比べるとスウィフトは格段によくできている。
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