観光列車に本気出すJR北海道の“到達点”はどこか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
北海道に新たな観光列車時代が到来する。JR北海道は、JR東日本や東急電鉄と協力して道内に観光列車を走らせると発表した。常識を覆す試みで運行を実現することになりそうだ。海外の鉄道会社も含めたオープンアクセスの第一歩になるかもしれない。
JR北海道で「THE ROYAL EXPRESS」を走らせる仕組み
直流電車をどのようにしてJR北海道で走らせるか。その仕組みは意外と簡単だ。電車の動力を無力化し、客車として使う。ディーゼル機関車に引っ張ってもらって走る。ただし、これでは走行できても、客車内で使用する照明や空調などの電力を得られない。そこで、機関車と「THE ROYAL EXPRESS」の間にディーゼル発電機を搭載した電源車を連結する。
かなり強引な仕組みだけれど、これなら「THE ROYAL EXPRESS」を運行できる。もともと伊豆急行はJR東日本の伊東線に国鉄時代から直通していた。線路の幅は一緒だし、車体の寸法も旧国鉄の規格だ。動力の問題は決着した。残る問題は保安システムだけど、これもJR北海道の機関車を使えば問題ない。
報道資料には「北海道内での運転にあわせた編成について今後検討」とあるけれども、掲載されている図を見ると、機関車の略図はDE10形やDE15形に似ている。JR北海道では、夏の臨時列車「ノロッコ号」やSL釧路湿原号の補助機関車として使われている。
では電源車はどうするか。東急電鉄は持っていないが、JR北海道はサービス用発電機を搭載した客車を持っている。SL釧路湿原号の専用客車「スハフ14形」と、ノロッコ号の客車「オハテフ510形」だ。
ただし、どちらも観光シーズンに稼働するから、「THE ROYAL EXPRESS」には使わないかもしれない。他に考えられる方法としては、JR東日本の電源車が使える。寝台特急カシオペアで使われていた予備電源車「カヤ27形」だ。また、JR東日本の観光車両「リゾートエクスプレスゆう」という電車が水戸線などの非電化区間を走るときのために、電源車「マニ50形」を用意していた。荷物車の室内にディーゼル発電機を設置している。
「リゾートエクスプレスゆう」は廃車となり、同じ色で塗装した「ゆうマニ」ことマニ50形も長野車両センターへ廃車回送されたという。長野車両センターには解体設備があり、使用済みの車両が送られると解体される運命である。しかし、ネット上のうわさによると、ゆうマニの解体は行われていないらしい。これを使うかもしれない。
いずれにしても、これまでの常識を覆す試みである。機関車と電源車を連結すれば「THE ROYAL EXPRESS」の運行は可能ではある。しかし、まさか本気でやるとは驚きだ。「JRの辞書に不可能の文字はない」のかもしれない。
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