新型特急「Laview」が拓く、“いろいろあった”西武鉄道の新たな100年:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
西武鉄道は新型特急「Laview」を公開した。後藤高志会長は「乗ることを目的とする列車に」と強調。西武特急に対する危機感が表れている。この列車の成功こそ、“いろいろあった”西武鉄道を新たな100年へと導く鍵となりそうだ。
そしてもう一つ、忘れてはいけない事件が「サーベラス・ショック」だ。西武鉄道グループ再生のため、再上場利益をもくろんで資本参加した外資ファンド「サーベラス・キャピタル・マネジメント」が「西武秩父線を含む5つの赤字路線の廃止、西武ライオンズの売却などを提案した」と報じられた。この提案についてサーベラスは「45項目を要求したけれども、路線廃止、球団売却は含まれない」と否定した。
西武鉄道はサーベラスの合理化案に応じなかったため、サーベラスによって敵対的TOBが行われた。TOBは失敗し、サーベラスは撤退戦に転じた。西武鉄道の再上場後に株式を順次売却。このとき、後藤氏はすでに西武ホールディングス社長として対応している。こうして西武鉄道の鉄道路線は守られた。
“便利”では戦えない「レッドアロー」
その後藤氏が「Laview」を「移動手段ではなく、乗ることが目的」と語った。1回目はあいさつで、2回目と3回目は質疑応答だ。これほど強調する背景には、西武鉄道の秩父特急「レッドアロー」の周辺環境の変化がある。「秩父への移動手段」にライバルが現れたからだ。一つは湘南新宿ライン。もう一つは東武東上線だ。
試しに、乗換検索アプリで秩父まで検索してみよう。池袋駅から西武秩父駅を調べると、西武鉄道ばかり出てくる。乗換回数の少なさ優先だとレッドアロー一択だ。料金の安い順だと西武鉄道の急行と飯能乗換の各駅停車。到着時間優先だとレッドアローと急行が半々くらいだ。
しかし、目的地を「西武秩父」から「秩父」に変えるとどうなるか。秩父は秩父鉄道の駅だ。西武鉄道の西武秩父駅と秩父鉄道の御花畑が乗換駅となるけれども、ちょっと歩く。この場合、時間順ではレッドアローが若干有利だけれども、候補には上越新幹線または湘南新宿ラインの熊谷で秩父鉄道に乗り換え、というルートも。東武東上線で寄居から秩父鉄道に乗り換えというルートも現れる。到着時刻指定だとレッドアローの出番は減る。乗換回数順も湘南新宿ラインが強い。
そして出発地を「渋谷」「新宿」「東京」とすればどうなるか。なんと、レッドアローは検索ルートの候補には出てこない。つまり、レッドアローの優位は「池袋発」に限られている。西武鉄道は西武秩父駅に温泉施設「祭の湯」と大きな土産物屋を作った。女優の土屋太鳳さんを起用したCMも作った。しかし、どんなに秩父に力を入れても、池袋発以外の乗換検索でレッドアローが出てこない。西武鉄道に乗ってもらえない。
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