罰金を科された「TikTok」は、第2のファーウェイになるのか:世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)
世界的に人気の動画共有アプリ「TikTok」の運営企業が米政府から罰金を科された。ファーウェイに続き、また中国企業が米国の目の敵にされている、と不穏な見方が浮上している。なぜTikTokに対する警戒感が広がりつつあるのか。この騒動はどこへ向かうのか。
TikTokの“ソフトパワー”で中国の存在感を示す?
ファーウェイについて言えば、最近、米メディアに対して大胆な動きを見せている。2月28日、ウォールストリート・ジャーナル紙に全面広告を掲載。「聞いた話全てを信じないで」というメッセージを米メディア向けに掲載した。また、政府機関で同社製品の使用を禁じると発表した米政府を訴えると見られている。さらに、最高財務責任者(CFO)である孟晩舟被告は、カナダ政府などに対して逮捕前の取り調べが違法だとして訴訟を起こしたばかりだ。
ちなみに中国は近年、ソフトパワーの面でもかなり力を入れている。ソフトパワーとは、米ハーバード大学のジョセフ・ナイ特別功労教授が1980年代終わりに生み出した言葉であり、カルチャーや政治的な価値観などを吹聴することで、人々が抱く国家などに対する印象を変えようとすることを指す。中国政治が専門の著名な米政治学者で米ジョージ・ワシントン大学のデイビッド・シャンボー教授は、中国政府が年間100億ドルをソフトパワーによる中国のイメージ向上に使っていると指摘している。
そんなことから、TikTokのようなソフトで世界中の多くの人たちに中国の存在感を示し、長期的に影響力を行使する――。今後、中国政府がインテリジェンス活動のみならず、そんなふうにTikTokを「活用」する可能性もある。そして、米国がそうした中国のイメージ向上のための動きを良く思っていないのも事実であり、中国に絡むことなら何でも難癖を付ける可能性は否定できない。
とにかく、中国企業の台頭に対しては、今後も同様の「物言い」がつくことだろう。中国がFacebookやTwitterを事実上、国内市場から締め出しているのとは違い、8000万人がTikTokをダウンロードしている米国は今のところ、TikTokを米国市場から追い出すつもりはなさそうだ。とはいえ、監視や制限は続けることになるだろう。
今後も、こうしたITテクノロジーをめぐる安全保障の議論は続いていく。
筆者プロフィール:
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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