働き方改革で残業が減らない理由 ちっとも進まない「経営者改革」:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/4 ページ)
働き方改革について7割の人が「実感なし」と回答したアンケート結果が話題になった。「長時間労働の削減」が改革の代名詞のようになってしまっているが、本来はそうではない。生き生きと働ける社会にするために必要なのは「経営者改革」だ。
仕事の「魅力」を実感するために、何が必要か
一人一人が生き生きと働くためには、本来「仕事」がもつ魅力を働く人たちが実感できなくてはなりません。
「単なる金を稼ぐための手段」に成り下がってしまった仕事を、本来の仕事の姿に戻す。仕事=キツい、つまらない、大変 ではなく、仕事=楽しい! と思える働き方。そのためのリソースを会社組織にたくさん作るのが経営者のお仕事だと思うのです。
ここでの「楽しい」は、ENJOYではなく、INTERESTING。「仕事が一番!」とか、「何が何でも仕事!」とか、「仕事に全てをささげたい」という類の“楽しさ”ではないけれども、何か分からないけど、「やりたい! やってみたい!」と心が動く。それは仕事への興味でもあり、自分自身への興味です。理屈じゃない。自然と心がひかれる働き方です。
「仕事=労働」には、「潜在的影響(latent consequences)」と呼ばれる、個人にとって数多くの経済的利点以外のものが存在しています。
潜在的影響とは、1日の時間配分、自尊心、他人を敬う気持ち、身体および精神的活動、技術の使用、自由裁量、他人との接触、社会的地位などで、これらは全て、「人が前向きに生きるエネルギー」を引き出します。
例えば、賃金の低い仕事であっても、働いている人は働いていない人より、活動的で自立心が高く、精神的な安定が認められるという調査結果は、世界中で一貫して得られています。ニーチェが「職業は人生の背骨である」と説き、マズローが「仕事が無意味であれば人生も無意味なものになる」としたように、働くことは「生きている価値」と「存在意義」をもたらす、とても大切な行為です。
実際、働き方改革がうまくいっている企業では、さまざまな工夫を凝らす制度やシステムを組織に組み入れています。「能力発揮の機会」があり、年齢や役職、性別に関係なく全ての社員が「意見」を言える空気があり、互いがサポートできる風通しの良さがある。そういった「働く人を元気にする力」をどうしたら社内で作れるのか? 知恵を絞り、それを考えるのが経営なんじゃないでしょうか。
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