「本業と無関係」「10年かかる」 キャビア養殖に挑む電線メーカーの生き残り術:新事業を選ぶ“2つの条件”(1/5 ページ)
ケーブル・電線メーカーの金子コードは、本業から懸け離れた、事業化に10年かかる「キャビア養殖」に参入した。なぜ畑違いの新事業に挑むのか。その背景には、10年かけて育てた新事業に救われた経験があった。金子智樹社長に、新事業の考え方を聞いた。
なぜあの企業は「戦略転換」したのか:
事業がうまくいっても、それが長く続くとは限らない。時代に合った新事業の立ち上げや経営方針の転換ができれば、持続的な成長につながるだろう。しかし、新しい戦略を実現し、成功させるのは簡単ではない。戦略転換した企業の収益の推移を追いかける。
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企業が新事業を立ち上げるとき、どんな商品やサービスを選ぶだろうか。「自社の技術を生かせる」「早期に黒字化できる」事業を想像する人は多いだろう。
しかし、ケーブル・電線メーカーの金子コード(東京都大田区)は違う。本業から懸け離れた、事業化に10年かかる「キャビア養殖」に着手し、少しずつ成果を出し始めている。
同社は、7期連続で過去最高の売上高を更新する見通しだ。そんな中、なぜ畑違いの新事業に挑むのか。その背景には、祖業の電線事業の需要が縮小した一方で、医療用製品の事業を10年かけて黒字化し、稼ぎ頭にまで育て上げた歴史があった。「もうかり始めた商品には、終わりが見えてくる」「目先の利益より継続が大事」と話す金子智樹社長に、新事業の戦略と考え方について聞いた。
売上高は10年前から倍増
金子コードの足元の業績は好調だ。2018年3月期の売上高は前年比10%増の45億5000万円。売り上げが落ち込んでいた09年3月期ごろから右肩上がりで成長し、10年前と比べて売上高を倍増させた。
14年に参入したキャビア養殖事業はまだ黒字になっていないが、医療器具のカテーテルに使われるチューブの開発・製造が屋台骨になっている。供給量は国内トップだという。今では電線やケーブルの売り上げを超えている。
だが、このような収益構造を築くまでには、さまざまな曲折があった。その経験こそ、キャビア養殖という新事業への挑戦につながっている。
それを読み解くために、まずは初代社長が切り開いた祖業の電線製造から振り返る。1932年に創業した同社は、電話交換機用のプラグコードや電話機用コードの製造から事業を開始。当時、電話機製造を担っていたのは日本電信電話公社(電電公社、現NTT)。電電公社にコードを納入できる業者は大手企業だけに限られていた。しかし初代社長は、試作品を何度も作って電電公社に売り込んだ。その努力が実り、納入の認可が下りたという。
電電公社との安定した取引を背景に、高度成長に伴ってどんどんコードの生産量は増加。会社は順調に成長していった。
ところが、2代目社長の時代になると、大きな転換点を迎える。85年、電電公社が民営化し、NTTになった。電話機製造は家電メーカーが担うようになり、コードの競争も激しくなる。さらに、コードレス電話機も登場し、需要も縮小傾向になっていった。
2代目社長は海外販売や商品ラインアップの拡充などに着手。さまざまな手を打ったが、やはり電線だけで成長は難しい。そこで目を付けたのが、カテーテル用チューブの開発だ。
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