【第7話】浮かび上がる「無駄の本質」:「働き方改革」プロジェクトリーダーを命ず(2/3 ページ)
働き方改革プロジェクトで本当に見直すべきポイントはどこか。議論の中で意外な人物がその“本丸”を指摘した。
芝田: 余力のめどがつくと、各部門の中で、やりたいこと、やるべきなのに今までできなかったことが出てきます。そうした業務に余力を向けつつ、人事としても大胆な人材再配置に取り組んでいきます。ただ、これは定期異動とは異なります。経営会議で討議しながら経企と連携して進めていきます。
多すぎる会議の無駄
上地IT担当役員から、ロボット化の要望が数百にのぼっており、今後、RPA導入チームの拡充が必要になるとの指摘がなされたのち、口を開いたのは、滝柄総務担当役員だった。普段から物静かで、ステコミの場でもほとんど発言したことがなかっただけに、日野下も含め、一同は意表を突かれた思いで耳を傾ける。
滝柄: 私の所管している、総務・法務機能は労働集約的な業務も多く、外部移管や思い切ったサービス水準の割り切りも含めてようやく20%の余力創出に届くかどうか、といったところです。
小田: うむ。その点は私も理解していますよ。
滝柄: ありがとうございます。ですが、これでは不十分だと思うのです。社長がキックオフでおっしゃった水準にも届いておりません。それに、今回の改革は、わが社の文化を変えるところまで踏み込まないと、本当の働き方改革にはならないと思うのです。平野さん、資料の投影をお願いできますか。
平野: はい。
総務部長の平野がPCをプロジェクターにつなぐ。
平野: こちらのグラフは、今回のプロジェクトでも活用した、業務分析結果です。本社部門の実に30%近くが、会議およびそのための資料作成に充てられています。各部門の改革施策の結果、作成資料の簡素化や自動化も進むとは思いますが、もっと直接的なアプローチが必要と思います。
業務分析時の定性コメントでも、最も多かった声は、「うちは会議が多すぎる」「物事が決まらない」「使わない資料を作っている」といったものでした。
こちらは、前田課長に調べてもらいました。この3カ月の本社の主要会議一覧です。この会議は、もともと2時間の設定でそれがさらに伸びて2時間半に及んでいます。一方こちらは1時間の会議ですが、出席者は38人です。議事録をみると、8人が順番に報告して簡単な質疑で終わっています。残りの30人は、「念のため」呼ばれた人たちでしょう。
小田: うーむ。38人が1時間ずつ働く、つまりは1人1日8時間労働で換算すると、約5人分の就労時間を1日中拘束するということになるな。会議1つに対して、社員1人に置き換えれば、1週間分のエネルギーがかけられているということか。
滝柄が応じる。
滝柄: そうです。うちは事業部門でも議論が白熱するような会議はほとんどなく、報告中心にも関わらず長いですし、スキのない、つまりは念のため作っておく資料が多いです。それが一つの文化になってしまっているのです。
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