“ゴーン予備軍”は存在する――「怪物」を生まないために:ゴーン報道の第一人者が語る【後編】(4/4 ページ)
長きにわたって日産とゴーンを追い続けてきた「第一人者」に、希代のカリスマの実像とゴーン事件が日本社会に残す問題について聞いた。
専門性のある「プロ」になれ
――納得できる一方、給料や人事権といった“生殺与奪”を経営者に握られているサラリーマンには、ちょっと難しい姿勢であるとも感じます……。
井上: これは個人の働き方ともかかわりますが、自分が専門性のある「プロ」になることで、今の会社で滅私奉公しなくてもよそで(自分の能力を)買ってくれるところがあるような人間になることが大事ではないでしょうか。たとえ組織に意見した結果、粗末に扱われてもよそに行けるわけですから。
今の勤務先の価値観にどっぷり漬からず、自分の人生観をきちんと持っている人が社員にいれば、こういう問題は起こらないと私は思うのです。今は経済が縮小していて再就職はしづらい、あるいは長いものに巻かれろという考え方もありますが、自分を磨いてさえいれば、拾ってくれる人はきっと出てくるものではないでしょうか。
ならば、組織の“モンスター”なんて怖くないのです。企業のトップがモンスターでも、せいぜいやれるのは左遷して冷や飯を食わせるくらい。でも、日産の西川広人社長たちはゴーンさんと差し違える覚悟が無かったのですが。
私も40歳で会社(朝日新聞社)を辞めました。サラリーマンというのは楽な部分もありますが、定年後に「本当に自分の人生がハッピーなのか」とも、思えてしまったのですね。
――本書でも必ずしも日産の中で上におもねるばかりでなく、衝突したり社外に飛び出したりした人も登場します。
井上: 確かに、日産にもそういう人はいました。ゴーンさんにたてついた人も、ケンカした訳ではないけれど、外に出て成功した人もいます。そういった人々はプロ意識が高い。会社ではなく、あくまで自分の「専門性」に属している。そんな人が増えれば、“モンスター”は生まれにくくなるのです。
組織の中には、コンセンサスや忖度(そんたく)をいい意味でしない人が、「かく乱要因」として一定数いないといけない。そうでないと、本当の意味での組織の多様性が無くなってしまうのです。
関連記事
- ゴーンという「怪物」を生んだのは誰か 日産“権力闘争史”から斬る
ゴーンという人物は結局、日本の企業社会において何者だったのか――。長きにわたって日産とゴーンを追い続けてきた「第一人者」に、“怪物”が生まれた真因について直撃した。 - ゴーン氏逮捕は「ホリエモン、村上ファンドの時よりひどい」 郷原信郎弁護士が指摘
ゴーン・日産前会長の逮捕について郷原信郎弁護士が問題点を指摘。逮捕するほどの案件では無かった可能性や、解明へ公正中立な第三者委員会の必要性を説く。 - 「セブン24時間見直し」の衝撃――ローソン竹増社長に問う“コンビニの持続可能性”
コンビニの24時間営業の是非が取り沙汰される中、ローソンの竹増貞信社長が3月7日、ITmedia ビジネスオンラインの単独インタビューに応じた。 - “会社員”が消える日――「雇用激減時代」の未来地図
AIやロボット、ICTの発達によって「会社員」が消えていく――。 - リスクだらけの首都・東京 在京企業が本社移転を考えるべき深刻な理由
魔物のような魅力を持つ「虚大都市」東京。しかしあらゆるものが一極集中し過ぎた首都は、重大なリスクをはらんでいる――。 - 中高年社員を確実に待ち受ける“絶望への落とし穴”とは 調査で解明
企業でささやかれる「働かない中高年」問題。その背景には個人ではなく構造的問題が。調査から迫ったパーソル総研研究員に直撃。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.