「もう、諦めるしかない」 中高年化する就職氷河期世代を追い込む“負の連鎖”:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/5 ページ)
40歳前後になった「就職氷河期」世代に対する支援に、国を挙げて取り組むことを安倍首相が表明した。しかし、就職時の不況や非正規雇用の拡大など、さまざまな社会的要因によって追い詰められた人たちの問題は根が深い。実効性のある支援ができるのか。
「非正規の賃金は正社員より高い」のが当然
そもそもこの助成制度は、「過去10年間で5回以上の失業や転職を経験した35歳以上」が対象で、「現在無職の人や非正規社員を正社員として採用した企業」に対し、中小企業で1人当たり年間60万円、大企業で同50万円を支給するというもの。「過去10年間で5回以上……」と制限した時点で絵に描いた餅と言わざるを得ません。
あまりの利用者の少なさに本年度から条件を緩和し、「正社員として雇用された期間が通算1年以下」に変更されましたが、これではいったい誰のための助成金なのか、ますます分かりません。
申し訳ないけど、私には「『正社員』というニンジンをぶら下げ、過酷な労働条件を押し付ける“ブラック企業”優遇策」としか思えない。もし、本気で「わが国の成長・発展を支える原動力は人だ」(by 安倍首相)と考えるのであれば、正社員化を進めるより、「非正規の賃金を正社員より高く」すればいい。ただ、それだけ。そこを確実に進めることが、いちばん効果があるに違いありません。
そもそも日本では「非正規社員の賃金は正社員よりも低くて当たり前」などという常識がまかり通っていますが、欧州諸国では「非正規社員の賃金は正社員よりも高くて当たり前」が常識です。
フランスでは派遣労働者や有期労働者は、「企業が必要な時だけ雇用できる」というメリットを企業に与えているとの認識から、非正規雇用には不安定雇用手当があり、正社員より1割程度高い賃金が支払われています。イタリア、デンマーク、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどでも、非正規労働者の賃金の方が正社員よりも高く設定されています。
世界の常識の背後には、国際労働機関(ILO)が掲げている、「同一価値労働・同一賃金」の原則が存在します。「同一価値労働・同一賃金」の考えに基づけば、「解雇によるリスク」を補うには、非正規労働者の賃金は高くなって当然なのです。
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