新型プジョー508は魅力的だが……:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
PSAグループのプジョーが新型プジョー508を発売。デザインとハンドリングに集中して開発を行うことで、カッコよく走って楽しいクルマを目指した。一方で、選択と集中の結果、犠牲になったものもいろいろとある。
ハンドリングは素晴らしい。ところがハンドルそのものには課題も
インテリアは、プジョーが「ユーザーインターフェイス/ユーザーエクスペリエンスの革新」と主張する「i-Cockpit」コンセプトに基づいている。確かに運転席の眺めは素晴らしい。プジョーの言い分通りスタイリッシュだ。
ただし、インタフェースとしての機能にはいろいろ問題がある。ピアノの鍵盤のように並んだスイッチは、小さなピクトグラムがドライバーを無視して天井を向いている。ナビやオーディオという極めて操作頻度の高いスイッチがそういう具合なので、走行中の操作は正直嫌な感じがする。そして何よりもハンドルだ。つかんで回す入力装置としてなかなか酷い。全てが見た目優先で実用的な部分が割り切られている。
話が若干前後するが、508のハンドリングは素晴らしい。ところがそのインタフェースとなるハンドルそのものは、明らかに小径過ぎ、かつ上下を潰した異形、加えてリム径も10時10分の位置が太くなっている。さらに加飾のために埋め込まれたメッキ部品のせいで感触や滑りが部位ごとに違う。ということは操舵中に握る場所によって手の座標も、握り断面径も、素材の摩擦係数も異なるわけで、ことに右に左に切り返しが続くワインディングではこの違和感がイライラさせる。いくらハンドリングが素晴らしくても、せっかくの美味いアサリの酒蒸しに砂が混じっているような台無し感がある。
デザインとともに重視され、プジョーの特徴となるはずのハンドリングに影響を及ぼすという意味において、他の部分の造形はともかく、ことハンドルに関しては、そうまでしてデザインを優先したのはさすがに失敗ではないかと思う。
ということで、見た目の話に限定すれば、犠牲をいとわない新型508のデザインは思い切りの良さが圧倒的で、相当に価値があるといえるだろう。ただ、ここまで書いてきたように犠牲になったものは決して小さくない。
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