令和時代の老後リスクとは? 入院できない人たち:専門家のイロメガネ(3/3 ページ)
たとえお金があっても入院を断られることがある。そんなリスクをご存知だろうか。病院から「ここは身内の方にでもサインをもらってください」と求められる書類がある。それが「身元保証人」の契約だ。
「おひとりさま」になることを想定した老後
自身の老後にどう備えるか、いざというときに頼れる親族がいればよいが、そうでない場合は「おひとりさま」になることを想定した工夫が必要だ。
自身の財産を管理し、意に沿った判断を第三者に委ねるという点でいえば、認知症になってさまざまな判断ができなくなる前に、自分のことを第三者に任せておく任意後見契約というものがある。このような方法で備えるのも一つだ。
筆者は、福岡市内で司法書士事務所を構え、後見人として認知症になってしまった身寄りのいない高齢者の生活支援を行っている。そんな中、後見人として夜中に病院から連絡を受け、取り急ぎ葬儀業者の手配を行った経験は何度もある。
後見人は身元保証人ではないが、身元保証人としても求められている役割の一部を担うことができる。後見人が本人の財産を把握し適切に処理すれば、入院費の支払いや退院後のことなどは後見人が責任をもって行うので、病院として無理に身元保証人を取らなくても困った事態になるということはないはずだ。本来の業務ではないが、本人が亡くなってしまった場合には、後見人が葬儀の手配を行うこともある。
後見人という選択以外にも、最近では「身元保証人」を引き受ける事業者も増えている。
契約で誰かに任せるというやり方は費用もかかる。困った事態となる前に、検討していくことが大切だ。
令和時代に身元保証人は必要か?
病院としては、これまで当然のように身元保証人を取ってきたから……という理由で、身元保証人の意味を正確に理解しないまま要求している例も多いように思う。
だが家族だという理由だけで、日ごろ付き合いのない親族に「身元保証人」として全てをひとくくりにして判断を背負わせるのは酷というものだろう。
身元保証人の役割の一つとして、先ほど医療行為の同意の話を挙げたが、本来であれば治療方針は自分自身で決めるべきで、親族が同意をしないと治療が進まないというのはおかしな話だ。
病院のなかには、医療行為について判断力がない患者への対応として、カンファレンスにはかり決定をするなどの工夫をしているところもある。
例えば、運転免許証や健康保険証は、臓器提供意思を記載する欄があるが、自分がどのレベルの治療を受けたいか、意思を残すような工夫があってもよいだろう。ケアマネージャーなど本人と接する機会の多い関係者が、定期的に意思の確認を行い記録しておけば、身寄りがいないまま急に入院をすることになっても、親族に全てを背負わせる場面は減っていくはずだ。
家族の単位が大きく変わったこの令和時代、これまでのような家族の存在を前提とした「身元保証人」というやり方は限界だ。入院時の親族を巻き込むやり方は時代遅れになりつつある。病院側も仕組みを考え直すべき時期に来ていることは間違いないだろう。
筆者:及川修平 司法書士
福岡市内に事務所を構える司法書士。住宅に関するトラブル相談を中心に、これまで専門家の支援を受けにくかった少額の事件に取り組む。そのほか地域で暮らす高齢者の支援も積極的に行っている。
企画協力:シェアーズカフェ・オンライン
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