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「月28日勤務」「危険な環境」 東京五輪の建設現場に根付く“恐怖の文化”:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/4 ページ)
2020年東京五輪の競技会場などの建設現場における「過酷な労働環境」を指摘する報告書が公表された。そこに記された「culture of fear(恐怖の文化)」という言葉が象徴するように、日本では非人間的な働き方が“当たり前”になっているのではないか。
「The Dark Side of the Tokyo 2020 Summer Olympics (2020年東京オリンピック“闇の側面”)」
これは、国際建設林業労働組合連盟(BWI)がまとめた報告書のタイトルです。この報告書では、「2020年東京五輪・パラリンピックの競技会場などの建設現場で、作業員が過酷な労働環境に置かれている」として、大会組織委員会や日本スポーツ振興センター(JSC)に改善を求めています。
BWIは約130の国・地域の労働組合が加盟する組織です。06年から五輪やサッカーワールドカップなど大規模イベントの建設現場の労働環境を調べ、提言書をまとめてきました。
それで、今回。18年9月に複数の競技会場の建設現場を視察し、今年2月にはJSCを事業主体として整備中の新国立競技場と、都が建設中の選手村で働く作業員計40人から聞き取り調査を実施したところ、「頭上をコンクリートがプラプラしている状態で怖い」「月に28日間連続で働いている例がある」など、危険な建設現場の状況を訴える声が相次いだのです。
具体的には、
- 作業員の半数が雇用契約でなく、請負契約のため(一人親方が請負う)、法的な保護が手薄
- 選手村で月28日間、新国立競技場で月26日間、勤務した作業員がいた
- 作業員の中には安全器具を自腹で購入した者がいた
- 薄暗い中での作業の改善を求める労組からの通報をJSCが受理しなかった
- 外国人技能実習生の人権が守られていない、資材運搬など単純作業ばかりを強いる
- 作業員が失職などを恐れて労働環境の改善を訴えにくい雰囲気がある
といった内容が記されていたのです。
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