パタハラ回避で50代が転勤? カネカ騒動が示した“辞令と家族”のリアル:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/4 ページ)
カネカの「パタハラ」騒動は、SNSに書き込んだ側も炎上するなど、さまざまな見方が出ている。一方、本来は個人の成長にもつながる「転勤」がネガティブに捉えられた。育児だけでなく「介護」とも密接に関わる転勤。そのメリットを生かす経営が求められる。
「うちの会社では50歳以上は本来、早期退職か、賃金減額でそのまま60歳まで働くか、賃金維持で転勤や出向を受け入れるか選ぶようになっていました。ところが、最近は先に転勤させ、そこで賃金減額か退職を選ばせようっていう魂胆が見え見えの人事が横行しているんです。つまり、本人が選択する年齢に達する前に転勤させてしまえば、転勤させたまま減額することが可能になります。
でもね、問題は、ベテラン社員にとってこの人事が“単なる転勤”ではないのを会社が分かろうとしないことです。
ベテラン社員の中には会社や周りには言わずに親の介護をしている“隠れ介護”が少なくない。私の部下もそうでした。転勤の内示を出して初めて、彼が親の介護をしていることを知りました。そんなことおくびにも出さないから、全く知らなかった。部下は『親の介護があるので転勤だけは勘弁してほしい』と泣きついてきましたが、人事が変わることはありませんでした。
会社側も足元を見てるんです。子育て世代を下手に転勤させると、パワハラとか言われてしまう場合があります。世間の評判も怖い。でも、ベテラン社員は転勤の良い面も知っているので、会社に盾突くことはめったにありません。結局、会社にとって50代以上はお荷物でしかない。転勤が嫌なら、会社をやめろって事なんでしょう」
男性が指摘する通り、50代の会社員の中には“隠れ介護”をしている人が相当数存在します。その数はおよそ「1300万人」。実に衝撃的です。
この数字は日経ビジネスが算出し、一時話題になりましたが、その多くは上級管理職だったことも分かっています。
また、労働政策研究・研修機構が行った調査では、「転勤で困難に感じること」に、全体の7割超が「介護」と回答し、「育児」の5割を上回りました。さらに、親の介護などを理由に転勤の免除などを求めた社員の3割以上が、会社側から配慮されることなく転勤していたのです。(参考:「企業における転勤の実態に関する調査」調査結果の概要)
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