テレビ局が吉本興業を出入り禁止にすべき理由:専門家のイロメガネ(2/8 ページ)
吉本興業の芸人による闇営業。この事件で最も重要なことは、事務所のあずかり知らない所で所属芸人が詐欺集団の会合に参加したことであり、芸人をマネジメントすべき吉本興業がそれを防げなかったことだ。本来研修を受けるべきは芸人ではなく、吉本興業の経営陣ではないのか。
吉本興業はトラブルを受けて公式Webサイトに「決意表明」なる文章を掲載した。過去にコンプライアンス推進委員会で研修やトラブル防止策を多数行ってきたと強調している。そして教育に問題があったとして所属芸人のうち2000人を対象にした研修を緊急で行うとも報じられている。
最大限の対応をしているようにも見えるが、問題の根っこは所属芸人が闇営業で行った先がたまたま詐欺集団だったことではない。コンプライアンス推進委員会まで作りながら、なぜ闇営業を完全禁止にしなかったのか? 闇営業が、一連のトラブルの原因であることは明らかだ。つまり適切なルールを作れなかった組織の問題ということだ。
本来研修を受けるべきは芸人ではなく、吉本興業の経営陣ではないのか。
筆者は経営者として多数の企業・個人と契約を結んでいる。過去に賃貸住宅のトラブルが発生した際には、暴力団と思わしき人物から脅されたこともある。そんな立場から今回のトラブルを考えてみたい。
契約書に必ず含まれている反社条項
今回の闇営業をきっかけに、吉本興業についてはさまざまな話が飛び交っている。特に重要なことは所属芸人と契約書を交わしていないことと、それに伴うルールが整備されていないことだろう。
現在契約を結ぶ際には分野を問わず、そして個人・法人も問わず「反社条項」といって、暴力団などの反社会的勢力の排除を目的とした条項を入れることはもはや常識だ。
身近な所では賃貸住宅に住んでいる人は、契約書に「あなたが暴力団員だったら即契約を解除します」といった条項が入っているはずだ。銀行口座や携帯電話など生活に欠かせないサービスも、暴力団は契約できない。これらの対応は各都道府県の暴力団排除条例(暴排条例)に基づいている。
ビジネス上の契約も同様で、相手方が暴力団や暴力団に関わるような組織だった場合は、契約解除できる反社条項が必ず含まれている。
暴力団排除条例は主に暴力団および暴力団に関わる者(暴力団関係者、規制対象者)が対象とされているが、契約書に記載される反社条項で規定される反社会勢力は、総会屋、半グレ、詐欺集団、一般人であっても暴力的な脅しを行う者など、より広い対象を想定している。
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