もう、やめない? 部下に理不尽強い続ける“管理職ごっこ”:会社をダメにする「仕事ごっこ」(4/4 ページ)
「管理職らしくふるまうために、コミュニケーションの壁、情報の壁をつくる」「情報がほしければ、礼儀作法をわきまえて「お前から頭を下げてこい」な空気を作る」――会社にはびこる、こんな“管理職ごっこ”、もうやめませんか?
そもそも「管理」って? 管理職のすべきことって?
日本語でいうところの「管理」は、英語では3つに分解できます。
- Manage(やりくり)
- Control(統制)
- Administrate(事務執行)
(詳細は『マネージャーの問題地図』(技術評論社刊 沢渡あまね著)を参照してください)
あなたの組織ではこの3つがうまく回っているでしょうか? 偏っていませんか? 管理職は、この3つをこなす必要があります。
メンバーとのコミュニケーションやモチベーションの維持向上は、Manage(やりくり)の仕事の1つ。メンバーに挨拶すらせず、上から指示を出しているだけではうまくいかないのです。
とはいえ、1人で全部抱えるのも酷なハナシ。管理職も人間です。やりくりは得意だけれど、事務はニガテな人もいるでしょう。1人で抱えようとせず、「組織内で分担する」「外注する」など、それこそ組織でやりくりすればいいのです。
- 「マネージャーの仕事は、チームに能力と協力と余力を作ること」
ある企業の管理職がおっしゃっていたメッセージです。あなたの組織では、能力と協力と余力を作ることができていますか?
少しずつでも風穴は開けられる
最近では、管理職をなくしたスタートアップ企業も出始めています。フラットなコミュニケーションと意思決定をするうえで、管理職なる職位が邪魔になると考えてのことです。
とはいえ、いきなり管理職をなくすのがいいとも限りません。統制および組織運営上、管理職がないと機能しない組織のほうがまだまだ多勢でしょう。そんな組織でも、打てる手はあります。
階層を減らす
- 「シニア○○」「○○補佐」「○○代理」「執行役員」……。
日に日に増える肩書きと階層。スリム化し、レポートラインを整え始めた企業もあります。階層の数だけ報告や差し戻し、および“仕事した感”を味わうための「仕事ごっこ」が増えますから(例:「部長代理らしいコメントを残して、1回は差し戻すのが礼儀」)。スリムにしましょう。
業務プロセスを見直し、権限委譲をする
- ムダな紙資料、ハンコを伴う手続きをなくす。
- 報告やレビューの数を減らす。
- 職位の役割を明確にし、権限委譲する。
それだけでも、意思決定のスピードが速くなります。
「さん付け」呼称にする
日頃役職付けで呼ばれていると、偉くなった気分になり、やがて態度に現れてしまうことも。コミュニケーションの壁も生まれやすくなります。その組織においてトップダウンの統制をどれだけ利かせる必要があるかにもよりますが、役職呼称をやめることも考えてみてください。
ちなみに、「さん付け」のほうがグローバル環境での仕事もしやすいです。英語を使うビジネスパーソンは、日本人を“-san”で呼びます(例:Amane-san)。
経営や管理職と現場が触れ合う場やきっかけを増やす
強制参加のイベントはこれまた「仕事ごっこ」になりがちですが、ちょっとした勉強会や読書会、あるいは食堂をリニューアルして休憩がてら雑談しやすい空間にするなど、仕掛けの工夫でもコミュニケーションのきっかけを作ることができます。
社長室、部長室をなくし、社長や部長も大部屋で仕事する
役職者専用の執務室を捨ててみるのも一考。ただし、上位者がいると社員が無駄に萎縮する場合もあるので……うまくやりましょう。
管理職が部下に相談、報告をする
- 「管理職とは部下の報告を待つものだ」
- 「報・連・相しにこない、部下が悪い」
この発想が、もう「管理職ごっこ」です。管理職のミッションは、チームをゴールに導くこと。そのためなら、管理職のあなたから部下に相談するなり、報告するなりしてもいいはず(そのほうが、部下も管理職に話しかけやすくなります)。
職位や社内外関係なく当事者間で一斉に情報共有する
- 社長→役員→本部長→部長→課長→課長代理→社員→派遣社員/協力会社
この伝言ゲームは、情報共有のスピードと精度を著しく落とします。また、情報が与えられる/与えられないの不均衡も発生しがちです。さらには「情報がほしければ、オレのところに来い」のような「管理職ごっこ」も生まれがちです。
イントラネット、あるいはグループウェアやTeams、Slack、LINE WORKSなどのチャットツールなどを活用し、業務上関係のある人たちのグループを作って、情報を一斉共有できるようにしてみてはいかがでしょう?
このように、いまの組織構造を保ちながら、ゆるく風穴を開け始めた組織もあります。
- 「苦労して出世し、いまのポジションを手に入れたんだ。キミたちも、偉くなりたければ理不尽に耐えろ」
その気持ちはわからないでもないですが、あなたの自己満足でしかないかもしれません。過去に味わった理不尽な苦労を、ほかの人にはさせない。「徳ドリブン」で、組織を健全に育てていきましょう。
アリたちのその後
ボロボロになったアリの王国。何匹かのアリは、自らのいしでその場をにげだし、いちめいをとりとめました。やがて、自分たちのチカラで国を作ることにしました。
新しくむかえた女王は、すべての働きアリにやさしく、外から新しく入ったアリを見つけてはあいさつをしています。まいにち巣の中を歩きまわり、働きアリのそうだんにのったり、たまにいっしょにお茶をのみながら、ゆめをかたりあっています。
- 「海のむこうのアリの国を、いっしょに見に行きませんか?」
- 「新しい巣のつくりかたに、チャレンジしてみたいんです」
- 「ぼくは、食べ物の正しいえらびかたを教えられる、そんなアリになりたい!」
働きアリたちの小さなひとみが、キラリとかがやきます。
沢渡あまねプロフィール
1975年生まれ。あまねキャリア工房代表。なないろのはな取締役。業務改善・オフィスコミュニケーション改善士。日産自動車、NTTデータ、大手製薬会社などを経て、2014年秋より現業(経験職種は情報システム、ネットワークソリューション事業部、広報など)。複数の企業で働き方改革、組織活性、インターナルコミュニケーション活性の企画運営支援・講演・執筆などを行う。NTTデータでは、ITサービスマネジャーとして社内外のサービスデスクやヘルプデスクの立ち上げ・運用・改善やビジネスプロセスアウトソーシングも手掛ける。著書に『職場の問題地図』『仕事の問題地図』『働き方の問題地図』『システムの問題地図』『マネージャーの問題地図』『職場の問題かるた』『業務デザインの発想法』(技術評論社)、『新人ガールITIL使って業務プロセス改善します!』『運用☆ちゃんと学ぶ システム運用の基本』(C&R研究所)などがある。趣味はダムめぐり。
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