勤続30年の元みずほ行員が斬る! もう一つの「年金2000万円問題」:小売・流通アナリストの視点(3/5 ページ)
「年金2000万円不足騒動」の発端となった金融庁の報告書で注目すべきだったこと――。実は現在の金融機関への痛烈な批判とも読み取れる。勤続30年の元みずほ行員が斬る!
金融マンは「資産運用のアドバイザー」として適任か?
話が脱線するが、働き方改革によって残業がなくなることに伴って、残業代のカットが家計を直撃して、ローンなどの返済に窮する人が増えている、という。そうした問題を取り上げているテレビ番組の中で、事例として出てきたのが、金融機関勤務の40代後半の人で、かつて1400万円の年収であったが、時間外勤務の削減が進んだため、月収が大幅に減ってしまって総額7000万円の住宅ローン返済ができなくなってしまったとのこと。しかし、私が驚いたのは、時間外勤務を当てにして高額な住宅ローンを組むなんて呑気な金融マンがいることの方だった。
年代を考えれば、50代になれば収入も頭打ち、もしくは減少に転じることも想定されたであろう。自分のリスク管理もできないような金融マンに、資産運用のパートナーを誰が頼みたいだろうか。極端な例かもしれないが、金融機関の職員(特に銀行系)にはマニュアルに従って正しく事務処理を行うことが得意な人材は多いかもしれないが、資産運用のアドバイザーとして適任の人材を揃(そろ)えている、とはお世辞にも言えない。
報告書は、顧客本位の業務運営を金融機関に求め、顧客との中長期的な関係構築ができる金融機関こそが生き残ると言っている。また、顧客側には、長期的な取引ができる金融サービス提供者を選ぶべきだと説いている。これらはまさに正論であろうし、こうしたことが実現できることが望ましいとは思う。
ただ、顧客側が、長期的な取引のできる事業者を自己責任で選ぶことが果たして可能なのだろうか。自分の周囲を見渡してみても、高齢者は金融機関の実情をよく知らない人が大半であり、昔の感覚で、金融機関はお堅い商売だからその提案も信用するに足る、などと感覚的に思っている人は多い。大半の高齢者は、どんな基準で取引金融機関を選べばいいかなど分かるはずがない。啓蒙は大事ではあるが、いまさら高齢者に自己責任なのだから勉強しなさい、というばかりではあまりに酷であろう。
方や、金融機関のほうも、事業環境が大きく変化する中で、自らの生き残りに向けて、短期的収益を拡大する競争に終始しており、中長期的な観点で顧客との関係を構築する余裕はないだろう。その中でも短期的な収益を実現しつつ、中長期的な布石を打つことができる事業者が生き残るというのは道理だが、競争の決着がつくまでには相応の時間がかかる。その間、最終的には淘汰される事業者が、顧客の利益を二の次に、短期収益追求に走るという時代が続くことになるだろう。
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