中国で受け入れられた信用スコアは、なぜ日本で炎上するのか?:専門家のイロメガネ(4/5 ページ)
筆者の育った中国では、スコアリングが当たり前のように行われ、多くの人がそれを受け入れている。そこで先行してうまくいっている中国の事例を紹介し、日本はどのような対応をすべきか考えてみたい。
Yahoo!スコア炎上に見られる問題点
今回のYahoo!スコアに関する最大の問題は、中国のように消費者から受け入れられる前に、「企業が自分たちの利益のために強引に進めている」という悪い印象が最初についてしまったことだ。「スコア非公開」「スコアの利用方法が不明」になっていることによって、「消費者が知らないうちに企業が何か良からぬことを企てている」という印象を与えてしまったのだ。
悪い印象が最初についてしまうと、悪い面にばかり人々の関心が集まり、ベネフィットの部分に光が当たらなくなる。そして利用が促進されにくい状況が形成されてしまう。
また生活の網羅性が低いという課題もある。アリペイは中国で非常に幅広く利用されていて、公共料金も多くの人がそれで支払っている。ECサイトのタオバオも非常に利用率が高い。これらを全てトータルすると、ほぼ全ての個人消費を網羅している実感がある。したがって、そこから算出されるスコアリングも「違和感がない」と感じられやすくなっている。
対するYahoo!スコアは、「その程度の消費実態の網羅性で、個人をスコアリングするなんておかしい」と、正確性や精度に対する信頼度がまだ低いという利用者の感覚もある。
信用スコアの利用を進めるために、企業は消費者からどう見られているかをもっと意識すべきだ。
Yahoo!スコアも本来は、消費者がベネフィットを感じられるサービスであるべきだった。知らないうちに同意(オプトイン)になっており、自分のスコアは見ることができず、何に使われるのかも不明であり、ユーザーベネフィットも伝わってこない、そんなサービスが受け入れられるわけがない。
買い物をすればだんだん上がっていくスコアなら、単純に「お得につながるスコア」をうたえばいい。分かりやすく、スコアによって次回割引率が変わってくるといえば「買い物をすればするほど、お得になるんだな」と理解される。新しいサービスだからこそ「単純明快さ」が求められる。
その他の日本のスコアリングサービス
現在、日本で話題性のあるスコアリングサービスとしては、ほかにJ.ScoreとLINE Scoreがある。
J.Scoreは、みずほ銀行とソフトバンクの合弁会社が提供するサービスである。年齢、性別、学歴、勤務先の業種と職種、正社員かどうか、持家かどうかなど18種類の情報を入力し、AIによってスコアが判定される。最高点は1000点。これによって融資の金利が決まる。融資の用途は教育資金がメイン。AIは将来性まで加味してスコアリングするという。
LINE Scoreは2019年6月にリリースされた新しいサービスで、LINE Financialとみずほ銀行、オリエントコーポレーションの合弁会社が提供する。スコアリングは年齢、性別、未既婚、子供の有無、住居タイプ、職業、業種、会社規模、年収、社会保険の種類といったアンケートによって取得する情報と、LINEプラットフォーム上での行動特性から行われる。今後はLINEポケットマネーという融資サービスの融資条件に、LINE Scoreが使われる予定である。融資額の上限や利率がスコアによって決まる。
これら2つのサービスは、どちらも融資に連動させるという意味で、従来の信用概念に近い。したがって、Yahoo!スコアより受け入れられやすいだろう。
これらのサービスは今後、消費者金融やカードローンといったキャッシングと競合してくる。スコアリングはこれまでよりもきめ細かく個人の信用度を測るサービスなので、これまでよりも有利な条件で融資を受けられる人が多数出てくるだろう。そのとき、「他の会社でも信用スコアに基づいて有利に融資を受けたい」というニーズが出てくれば、信用スコアが他社に提供されるベネフィットが出てくると思われる。
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