観光客を呼べなかった「静岡のお茶」が、若い女性を引き付けている理由:お茶屋さんのかき氷に行列(4/5 ページ)
静岡県中部地域で「お茶」を観光コンテンツ化する動きが活発だ。静岡のお茶を使ったかき氷を提供する取り組みは、SNSを使う若い女性客の心をつかんだ。なぜ今、知名度が高い「お茶」と観光を結び付けようとしているのか。背景には大きな危機感がある。
「お茶で人が集まる」ことを実証したい
「私たちにとっては、いつも見ている景色なんですけどね」。牧之原市で茶園を営む柴本俊史さんはそう話す。茶畑を使った観光コンテンツ作りに協力している生産者だ。
柴本さんは茶葉を卸すだけでなく、自ら商品開発も手掛ける。それが、完全無農薬の釜炒り茶だ。釜で炒って作る柴本さんの緑茶やウーロン茶などは「(茶葉を)漬けっぱなしにしていても濃くなりすぎず、あっさりとした味。香りにも特徴がある」という。
柴本さんのような生産者たちに協力してもらい、19年に始めた取り組みが「茶の間」だ。茶畑の真ん中に木製のデッキを設置。土日限定の予約制でその場所を貸し切りにして、当日は絶景を楽しみながら生産者からお茶の説明を聞き、その場で味わう“体験型”コンテンツとなる。
現在は牧之原市のほか、静岡市や富士市など5カ所の茶畑に「茶の間」を設置。5月にテスト販売を始めると、当月分はすぐに完売した。雨天の場合は中止になってしまうが、反響は大きいという。8月までに約40人が体験。9月も10日時点で30人ほどの申し込みがある。問い合わせの半分は県外からだという。
柴本さんの茶園に設置されたデッキに座ると、周りを取り囲む茶畑の向こうに街並みを見下ろすことができ、さらにその先には海が見える。心地よい風が吹いて、喧騒から離れたのんびりとした時間が流れている。茶氷と同じように“写真映え”するコンテンツでもあるが、それ以上に“ここでしかできない体験”がある。生産者にとっては日常の風景でも、そこが新鮮さと驚きが詰まった場所になるのだ。
柴本さんは、茶の間の取り組みに協力することで「お茶で人が集まるんだよ、と実証したい」と話す。「お茶そのものだけでなく、提供の方法が重要。昔からあるものだからこそ、次の時代に残るようにアップデートしていかないと。お茶を楽しむ場が広がっていけばいいですね」(柴本さん)
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