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カネがなければ諦めろ? “身の丈”に合わせる英語民間試験導入は廃止すべき理由:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/5 ページ)
萩生田文科相の「身の丈」発言も問題視された、大学入試への英語民間試験導入が延期になった。家庭の経済力による機会の格差が、学力、そして“生きる力”に直結する日本社会で、今回の制度導入は貧困世帯の子どもの命をないがしろにするようなものだ。
子どもの学業成績
- 小中高校生の第1子の学業成績が「(まあまあ)良好」である割合は、母子世帯33.0%、父子世帯36.7%、ふたり親世帯46.0%
- 母子世帯の場合、娘は息子より学業成績が明らかに良く、その差は小学生の段階では5ポイントほどであるが、中高生の段階になると18ポイントまでに広がっていた
- 習い事、塾代といった教育支出は、子どもの学業成績との関連性が認められた
……さて、いかがでしょうか。日本のシングルマザー世帯の貧困率は先進国でも突出しています。子どもの貧困率の高さも問題視されていますが、その背景には、ひとり親かふたり親かという格差が存在し、その格差は年々拡大しているのです。
人生を生き抜く“リソース”を得る機会が奪われる
調査では、末子が中高生年齢層の母子世帯では、よりいっそう困窮している状況が明かされましたが、その主な原因が「母親の収入と子どもの教育費のギャップ」です。
半数以上のシングルマザーは非正規雇用のため、収入はほとんど増加しません。一方、子どもの教育費は年齢が高くなればなるほど増えるため、生活は困窮する。なんとも言葉にしがたい現実ですが、シングルマザーが増えている今の日本社会で、シングルマザーの貧困は早急に解決しなければならない大きな問題であることは間違いありません。
もし、こういった状況を誠実に受け止めれば、高い受験料がかかり、専用の参考書が必要な民間の英語試験を導入しよう、なんて議論にはならないはず。
ところが、悲しいかな上級国民たちにはそんなことは関係なし。民間試験導入を決めたということは、「そんなの俺らが知ったこっちゃない」と、弱者切り捨てを容認したと同義なのです。
なんだか書いているだけでむなしくなってくるのですが、貧困の最大の問題は「普通だったら経験できることができない」という、機会の略奪です。
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