「不透明な社内評価」にNO! 報酬は「市場価値」で決める――ベルフェイス社長が人事制度に大なたを振るった理由(1/5 ページ)
足に頼った営業をユーモラスにチクリと皮肉るテレビCMで一躍、有名になったインサイドセールスシステムのベルフェイスが、社員の報酬を「市場価値」で決めるという革新的な人事制度の導入に踏み切った。導入の背景と効果について社長の中島一明氏に聞いた。
少子高齢化に伴う人手不足が深刻化する中、従来型の「等級と給与テーブル」の人事制度で優秀な人材を採用できるのか? 優秀な人材をいつまで自社に引き留められるのか? 世界で戦える組織になれるのか――。
足に頼った営業をユーモラスにチクリと皮肉るテレビCMで一躍、有名になったインサイドセールスシステムのベルフェイス。同社で社長を務める中島一明氏は、21歳で起業してからというもの、従来型の人事制度にずっと違和感を覚えていたという。
優秀な社員は、そもそも獲得するのが難しいだけでなく、今より条件がいい会社や働きがいのある会社があれば、すぐに転職してしまう。そんな中で、企業がいつまでも「採用する人材を選べる立場にある」と勘違いして旧態依然とした「社内のものさし」による人事制度を適用していたら、変化の時代に戦える人材を確保できない――。
そう考えていた同氏がある日、手に取ったのが、「NETFLIXの最強人事戦略〜自由と責任の文化を築く〜」(光文社)という書籍。それを読んで分かった“日本の人事制度の問題点”は、採用のときこそ人材の価値が「市場の原理」で決まるものの、入社以降の「評価」においては、それが全く反映されないことだった。
転職エージェント3社が社員を評価、それをベースに報酬を算出
この気付きをヒントに、中島氏が新たなベルフェイスの人事制度として導入したのが、「評価に”市場価値"を反映させ、業界最高水準の報酬を支払う」というものだ。
具体的には、社員は年に1度、キャリアシートを更新し、その作成とファクトチェックを人事がサポート。出来上がったキャリアシートは3社の転職エージェントによって評価され、その評価レポートを基に、業界最高水準の報酬を算出するという。
このフェアで本質的な人事制度を導入するにあたってどんな苦労があったのか、導入の結果、社員のモチベーションは変化したのか――。外資系自動車業界、Web業界などで人事責任者を歴任し、現在は資生堂の人事部で制度企画グループのマネジャーを務める田中順太郎氏を聞き手に、ベルフェイスの人事施策を解明する。
ベルフェイス 代表取締役社長 中島一明氏プロフィール
1985年生まれ、福岡県出身。起業を志し、高校を3カ月で中退。15歳で土木会社に就職し、貯めた資金で世界一周の旅をしながら200枚のビジネスプランを作成。2007年、21歳で1社目を起業し、各県の中小企業経営者を動画で紹介する広告メディア「社長.tv」を全国展開。紆余曲折を経て同社を退任したのち、2015年4月27日にベルフェイスを設立。
資生堂本社人事部 制度企画グループ マネージャー 田中 順太郎氏プロフィール
大手金融機関から1999年にメルセデス・ベンツ日本に第2新卒として転職し、当時事例のない職種別新卒インターン採用導入による離職率5%以下の達成や、外部コンサルに頼らずゼロベースで自らのアイデアを具現化した人事制度改革を実現。その後Webサービス等複数業界で人事部長を歴任し、現在は資生堂にてグローバル・国内双方の人事制度構築に取り組む傍ら、AnityAにHRスペシャリストとして参画。”Employee Success”をビジョンに掲げ、会社と個人の”WIN-WIN実現”を目指している。
「等級と給与テーブル」の限界とは?
田中: 経営者として最初に人事制度を整備しようと考えたのは、どのタイミングだったのでしょうか。
中島: スタッフが30人を越えたあたりでしょうか。理由の1つは、立ち上げ期のメンバーと、事業が軌道に乗ってから入ってきたメンバーとの間で給与水準に差が出てしまうようになったからですね。
会社の立ち上げ期には、ビジョンや夢があれば給料が低くても人が集まるんですね。ただ、事業が形になってきて、加速するフェーズで人を集めると、応募する人もさまざまな条件面を見て検討するようになるので、給与水準が少しずつ上がっていくんです。
このあたりで給与テーブルの原型をつくったのですが、基準に対する達成度で評価すると、リスクを取って入った初期メンバーのほうが給料が低いままで、後から入ってきた人を越えられない状況が出てきてしまったんです。それに違和感を覚えたので、こうした差を吸収できる制度を作る必要があると考え、人事制度の設計に着手しました。それが2年前くらいです。最初は人事コンサル会社がつくった等級や給与テーブルと職種で運用していました。
田中: ただ、その仕組みによる運用だと、一足飛びに追い付くチャンスや、市場との乖離(かいり)を埋めるような仕組みがなかったわけですね。
中島: そうですね。しかし、だからといって給与テーブルが決まっているにもかかわらず、「こいつは何カ月もがんばっているから」という理由で給料を上げてしまうと、その瞬間に制度が崩壊しますよね。「これまでの評価はなんだったの? 社長に直談判すれば給料が上がるのか」と。「報いたいのに(給与テーブルがあるせいで)報いることができない)」という気持ちと制度の間でずっとジレンマがあったのは事実です。
もう1つは、グローバル人材の採用ですね。報酬について等級で説明できないことが多いのです。例えばこれから海外の市場に出て行ったときに、場合によってはGoogleのようなグローバル企業と戦って、年収2億円の人材を採用しなければならないことだってあるわけです。
そういうときに、役員の年収が1000万円なのに、グローバル人材には2億円払う――というのは、等級では説明できないんです。なぜ2億円なのかというと、「グローバルでビジネスを立ち上げて成果を上げて、1つの国のビジネスを任される人の“市場価値”が2億円だから」なのであって、等級がどうとか、「あの役員の給与が2億円だったら俺は7000万円ぐらいもらってもいいのではないか」というような話ではない。これが市場原理をベースにした評価ならば、ロジカルに説明できるんです。
そもそも私たちは、「グローバルでビジネスを展開する」と最初から決めているので、そこで戦うとなると、給料が私の10倍くらいになるような社員を連れてくるようなシーンがあるだろうと想定して人事制度をつくっています。だから他社と違う視点で仕組みをつくっているというのはありますね。
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