GRのコペンとダイハツ・コペン:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
日本のスポーツカーの中で、おそらく実力が最も侮られているのはダイハツ・コペンではないか? 筆者は以前からそう思っている。出来上がった2代目コペンは、クローズドコースでゼロカウンタードリフトができるような見事なバランスだった。山道を気持ちよい速度で走っても、ステアリングのインフォメーションが豊富で楽しい。こういうクルマが侮られている内は、日本の自動車文化もまだまだだと思う。
これはスポーツとは何かという定義によるだろうが、筆者はステアリング以外の要素でクルマの挙動を変えることが運転の醍醐味(だいごみ)だと思うのだ。別に派手にリヤを滑らせるとかそういうことではない。ラインを微調整するためにアクセルやブレーキが効くことが大事なのだ。だから接地感が高く、ちょっとやそっとでは微動だにしないGRはむしろ少し物足りない。だからホイールがこじられてタイヤの接地面がゆがみ、ほんのわずかずつグリップが落ちてくることがステアリングから伝わってくる素のコペンが楽しい。
では路上へ連れ出すとどうか? という段階でいつものごとくタイヤをチェックすると、なるほど3台そろって「ポテンザRE050」を履いていた。ここではGRはまた違う側面を見せた。スラロームの印象では「ぶっ飛ばさないと面白くないんだろうな」と予想していたが、それは裏切られた。狭くて曲がりくねった先行きの見通せない道では、GRの絶大な接地感は安心感につながる。別に飛ばさなくても正確なステアリングと望外の乗り心地を楽しんで走れる。
さて、結論をどうするか? これはなかなか難しい。まずクローズドコースでタイムを求める人にはGR一択だ。行きつけの山道で、世間に眉をひそめさせない範囲で楽しく走るなら、素のコペンだと思う。しかしツーリング的に、知らない山坂を旅するような使い方ではGRの信頼感もまた価値が高い。
もっと下世話な話をするなら、トヨタの店で買えるのはGRだけだ。ダイハツではどれも扱う。そして行き着く所は値段だろう。素のコペンはCVTで税込み189万円、MTで191万円。GRはそれぞれ238万円と244万円。ついでのようで恐縮だが、CVTの出来はかなり良い。逆にこのクルマが楽しい速度域では、MTを選んでも残念ながら変速があまりいらず、シフトを楽しむ機会は多くない。という意味ではCVTを勧める。
価格の話に戻ろう。趣味のクルマだからコスパでいっても意味はない。予算が足りるか足りないかだ。ただひとついえるのは、素のコペンは予算が足りないから選ぶクルマではなく、積極的に選ぶだけの個性がちゃんとあるということだ。
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