働き方改革で“消えた”残業代はどこへ? 真にやるべきことは「効率化」「コスト圧縮」ではない:利益成長する「生産性向上」のためにやるべきこと(4/4 ページ)
続々と進む「働き方改革」。2019年4月の関連法施行もあり、現場では効率化が進み残業時間も削減傾向にある。一方で、浮いた残業代はいったいどこへいっているのか。また、経営陣は人件費をどのように配分すればよいのか。企業アナリストの大関暁夫氏が解説する。
20年からは中小企業も「改革」の対象に
20年4月からは、中小企業も働き方改革関連法案の対象となります。しかし、従業員も少なくギリギリの状態で運営している企業も多く、残業時間の削減にはなかなか至っていないのが実情です。ただ、大手企業のグループ企業的な下請け企業や、大手企業との大口取引のある中小企業は、大手企業におけるコンプライアンス重視の流れから徐々に改革へと意識が向き始めています。
埼玉県で50年以上にわたって大手企業向けにオーダーメイドの工作機械を製作している荻野精機製作所(埼玉県蕨市)は、20年1月に控えた社長交代を前に、次期社長が本格的に「働き方改革」への取り組みを始めました。
「当社は30人ほどの中小企業ですが、取引先はほとんどが大手企業なのでことさらコンプライアンスには気を遣っています。労務問題でも、法令違反やブラック職場と言われるようなことがあれば、取り引きを停止されてしまうリスクは大いにあるわけで、『中小企業だから』と言い訳をするのではなく、取引先の大手企業と足並みをそろえる必要があると考えています」と次期社長である荻野真也副社長は話しています。
残業削減と労働生産性の向上、さらに削減コストの還元については、「取引先からいろいろな話を聞いて、まずは総労働時間を減らしても利益を増やしていける体制づくりをすることが重要であると考えました。その上で、増加した利益は従業員にしっかり還元していきたいと思っています。単純に浮いたコストを給与として還元するだけでは、企業も従業員も進歩がありませんから」と語ってくれました。
浮く予定のコストを先行して投資へ配分
同社は現状、残業時間の削減に大きな成果が出ているわけではありませんが、荻野副社長は浮く予定のコストを前取りする形で、営業とマーケティングの専門家企業と契約したそうです。これまでほぼ待ち受けるだけだった営業体制を、自ら仕掛けていけるように根本から変えるための社内教育と体制再構築を始めています。
「20年春には残業時間の削減にも大きな成果を出し、同時に社員と体制のレベルアップをはかることで、国内だけでなく海外からも今以上に仕事が取れる生産性の高い企業に成長させていきたいと思っています。社員にも私のビジョンと社員への還元策を話して、共感を得ています。ただ受動的に『労働時間を減らさなければ』とやるだけでは苦痛なだけかもしれませんが、より成長できるチャンスだと能動的に捉えれば、大きな成長のきっかけづくりにできるのではないかと思います」(荻野副社長)
やる気にあふれている次期社長の言葉には、企業の大小を問わぬ「働き方改革」への企業対応の真理が語られているように思いました。このように、働き方改革を単に残業代を削減するだけのものではなく、より企業を成長させられるチャンスと考えて投資する企業も出始めています。働き方改革は第2フェーズに入ったといってもよいかもしれません。
著者プロフィール・大関暁夫(おおぜきあけお)
株式会社スタジオ02 代表取締役
横浜銀行に入り現場および現場指導の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時は旧大蔵省、自民党担当として小泉純一郎の郵政民営化策を支援した。その後営業、マーケティング畑ではアイデアマンとしてならし、金融危機の預金流出時に勝率連動利率の「ベイスターズ定期」を発案し、経営危機を救ったことも。06年支店長職をひと区切りとして銀行を円満退社。銀行時代実践した「稼ぐ営業チームづくり」を軸に、金融機関、上場企業、中小企業の現場指導をする傍ら、企業アナリストとしてメディアにも数多く登場。AllAbout「組織マネジメントガイド」役をはじめ、多くのメディアで執筆者やコメンテーターとして活躍中。
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