1年で230万人集客 順路なし、あえて“さまよう”美術館に外国人観光客の行列ができる理由:160カ国以上から来訪(4/4 ページ)
東京・お台場で2018年6月にオープンした美術館が、1年で約230万人が訪れる人気施設となっている。特に、外国人観光客が全体の5割を占めることが大きな特徴だ。同館を目的として東京を訪れる外国人が多いのはなぜか。施設の狙いと特徴を森ビルに聞いた。
海外の大都市に負けない街づくりへ
同館の成功は、東京の臨海エリアの活性化にも影響を及ぼしている。オープン後、最寄りであるゆりかもめの青海駅では、乗降客数が前年と比べて約1.5倍に増えた。また、隣接する商業施設「ヴィーナスフォート」を訪れた客数は約1.2倍に伸び、にぎわい創出に一役買っている。
新しい施設でありながら、メラニア・トランプ米大統領夫人や多くのハリウッドスターをはじめ、政府や東京都の関係者、教育関係者などが見学に訪れており、話題に事欠かない。
「森ビルでは、世界中から人やモノを引き付ける力を『都市の磁力』と呼んでいる。チームラボボーダレスが東京の磁力を高めることに貢献できたのではないか」と杉山氏は話す。
今後は「教育的な側面をもっと伝えたい」と同館企画運営室の高橋一菜氏は語る。「1年目はまず知ってもらうことに注力した。次の段階として、展示の意義を伝えるワークショップの開催などを検討している。違う見せ方で“深み”を伝えていきたい」(高橋氏)
さらに、同館の企画・運営で得た知見を、今後の都市開発に生かすことも模索している。
例えば、アーティストと一緒になって施設全体を企画するという手法だ。施設側が管理にばかり目を向けていると、部屋と通路の境界線を越えるようなダイナミックな表現はできない。杉山氏は「場所貸しだけをしていても、他の都市と差別化できない。行く意味がない街になってしまう。刺激的で、世界の見え方が変わるような面白い街をつくる方法として、今回のケースが参考になる」と話す。テナントとの関わり方や運営方法など、新しいノウハウを得て、他の施設の企画や運営に生かしていく。
背景にあるのは、冒頭でも触れた、海外の大都市との競争の激化だ。都市として魅力がなければ、グローバル企業に“素通り”されてしまう。「不動産業を続けていれば、一定の賃料は得られるが、新しい街づくりをしないと他の都市に負ける。東京が、グローバル企業の拠点として選ばれるように、街の魅力を高めていかなければならない」(高橋氏)
オープンからまだ1年半だが、“東京の目的地”として世界から人を引き付けることに成功した。展示の改良や施設の新たな活用によって、さらに存在感を強められるか。
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