freee“10倍値上げ”問題から考えるサブスクエコノミーの落とし穴:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/3 ページ)
今週上場したfreeeの波紋が後を引いている。freeeが提供する法人向け会計サービス内容の改定が今月上旬に発表され、これが実質“10倍値上げ“になるとSNS利用者の間で解釈されたためだ。
携帯業界とサブスクの関連性
実は、いわゆるサブスク企業は、値上げに際して慎重に各種指標を吟味している。それは顧客の想定スイッチングコストとチャーンレート(解約率)だ。
スイッチングコストとは、現在のサービスから別のサービスに乗り換える際に発生するコストだ。乗り換えで得られる恩恵がスイッチングコストを上回れば顧客の流出(解約)を招く。
このことは携帯電話で例えると分かりやすいかもしれない。格安スマホの登場により、現在3大キャリアに回線を持つ顧客のなかにも、格安スマホに乗り換えた方がお得な顧客は少なくない。
そうであるにもかかわらず、3大キャリアはいまだ盤石な顧客基盤を有している。その理由としては、「乗り換えてもそれほど安くならない」という金銭的なコストのみならず、「手続きが面倒くさい」という物理的なコストもあれば、「家族で加入しているため、自分だけ乗り換えるのに抵抗がある」といった心理的なコストもある。これらの要因がスイッチングコストとなり、乗り換えを阻む要素となる。
そこで、サブスク企業はライバル企業の事例や自社データを参照しながら、顧客のスイッチングコストを見積もり、細かく値上げして反応を見つつ、顧客が解約しないぎりぎりの水準まで値上げしていく傾向がある。
このように考えると、freeeの実質値上げがSNSでプチ炎上してしまった事実は、顧客の想定スイッチングコストを見誤ったとも考えられるのではないだろうか。そうなると、同社の想定以上に顧客の解約や乗り換えが起こる恐れもある。
待ち受ける値上げのヒントは決算書に?
サブスクサービスが今後値上げするかは、その会社の決算書を見れば大方予想がつくだろう。鍵となるのが、会員数の伸び率と売上高の推移だ。
今回上場したfreeeの有価証券報告書を確認すると、同社でアカウントを開設している法人会員の数は19年6月末時点で15.4万人程度だった。
しかし、法人会員数の前年比伸び率は、図の通り年々低下している。顧客あたりの単価が同じであれば、前年比伸び率低下はそのまま業績の伸び悩みという形で反映されてしまう。そこでfreeeは、法人会員数の伸び率低下を、顧客単価の積み増しによってテコ入れしたのではないか。
このように、決算書からそのSaaS企業が本来取りたかった利用料の水準がある程度予想できるため、将来の値上げについてもある程度のアタリをつけることができるだろう。
同社によれば、freeeにおける月次の平均解約率は2.0%以下であるというが、今回の実質値上げにより、解約率も増加するだろう。マネーフォワードのようなライバル企業へどれくらい流出するか注視が必要だ。
サブスクは、一般的なモノやサービスを販売する一時的収益のビジネスと異なり、将来キャッシュフローが予測しやすいという利点がある。そのため、サブスク企業は投資家からの資金調達計画が立てやすい。その一方で投資家の期待が「成長を前提としたビジネス」というレベルまで高まってしまうデメリットも伴いやすい。市場が成熟し、見込み客層をあらかた囲い込んでしまうと、今度は新規顧客を獲得するためのコストが収益を圧迫するだろう。
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