同一労働同一賃金が招く“ディストピア”とは?――「だらだら残業」だけではない、いくつもの落とし穴:短時間勤務者には痛手?(3/5 ページ)
2020年から開始する「同一労働同一賃金」。期待を集める一方で、「だらだら残業」を助長したり、短時間で働く人の負担になったりと、さまざまな「落とし穴」も潜んでいるという。しゅふJOB総研所長を務め、労働問題に詳しい川上敬太郎氏が斬る
子どもを迎えに行けない状況を生む
そのため、状況次第では、給与を減らさないよう無理に勤務せざるを得ないという事態も発生してしまいます。例えば、既に有給休暇を使い切ってしまったEさんに、保育園から「子どもが発熱したので迎えに来てほしい」と連絡が入ったとします。
早退した場合、本来の勤務時間に満たない分の給与を減額されることになります。しかしEさんは、その日の予定を翌日以降に上手に振り分け、最終納期に遅れることなく、一度も残業することなくきちんと仕上げることができたとしましょう。それでも早退した日のEさんの給与は、減額されたまま変わりません。
上記のような例は、実際に今も日本中の職場で起きていることです。同一労働同一賃金の考え方だけだと、この状況を解決することはできません。
「だらだら残業」を助長する可能性も
一方、Eさんと同じ職務に従事しているFさんは、毎日残業続きだったとします。残業すれば、当然に残業代がつきます。1日8時間を超えている分は、時給換算で25%が上乗せされます。もしEさんと同じ成果を求められていたFさんが、毎日残業手当をもらいながら職務に従事したにもかかわらず、最終納期に間に合わなかったとしたらどうでしょうか。
それでも、給与の総額を比較すると、早退したEさんよりFさんの方が多くなるはずです。成果部分を人事評価やボーナス査定で考慮してもらえるのであればまだ救われる面もありますが、そうでなければEさんとしては浮かばれないシステムだと思います。
さらに懸念されるのは、給与総額を増やすためにあえて残業しているようなケースです。先の例に挙げたFさんが、もし不必要な残業を繰り返していたり、勤務時間中に無駄なおしゃべりが多かったりしたらどうでしょうか。会社としては不要なコストを払っていることになりますし、周りの人にも悪影響が出てしまうことが懸念されます。
関連記事
- 同一労働同一賃金がまだまだ日本で浸透しない、これだけの理由
2020年から開始する「同一労働同一賃金」。期待を集める一方で、“真”の意味で浸透していくにはまだまだハードルがありそうだ。どういったところに課題があるのか。しゅふJOB総研所長を務め、労働問題に詳しい川上敬太郎氏が斬る - 課長の平均年収は932万円、部長は? 外資との「格差」も明らかに
日本で活動する企業の報酬状況が発表。日系企業と外資系企業合わせて679社が参加した。調査結果では課長職や部長職の平均年収も明らかになった。日系企業と外資系企業の報酬格差も合わせて発表し、特に役職者以上で顕著な開きがあった。 - セブンとファミマとローソン、「客単価」が最も高いコンビニは? “華金”に強いチェーンも明らかに
コンビニ大手3社、「客単価」が最も高いチェーンは? 曜日別に分析すると、「金曜日」に特に強いコンビニも明らかになった。レシートを分析して、見えてきたものとは。 - 忘年会、スルーしたいのは若者だけではない! 「同一飲食同一支払」を求める管理職の悲痛な叫び
SNSで話題の「忘年会スルー」。「高いお金を払ってわざわざ上司の自慢話に付き合いたくない」という若年層のコメントが目立つ。一方で、管理職の方でもスルーしたい人が増えているのだとか。スルーしたいのは管理職も同じ?経営コンサルタントの横山信弘氏が斬る。 - 満員電車にNO! 優雅に座ってバス通勤、広がる? 朝食付きサービスも
ビジネスパーソンの悩みの種「満員電車」。テレワークやフレックス制度の導入でやや緩和しているが、まだまだ朝夕の混雑は激しい。そんな中、郊外などから都心へ向かう優雅なサービスが出始めた。中には朝食、コーヒー付きのものも……。 - ワタミは本当に「ホワイト化」したのか? 「ブラック企業批判」を否定し続けてきた“黒歴史”を振り返る
創業者である渡邉美樹氏が10月1日、ワタミに復帰。復帰会見では離職率の低下など、「ホワイト企業化」が宣言された。「ブラック企業」と批判され続けてきたワタミだが、本当に環境はよくなったのか。ブラック企業アナリストの新田龍氏が3回にわたり、ワタミの過去を振り返るとともに現状を検証する。 - 「給与を上げれば退職者は減る」は本当か 経営層の考える「退職対策」と現場の乖離(かいり)が明らかに
「給与を上げれば退職者が減る」と考える会社役員は多い。しかし、給与の上昇は本当に退職率を下げる効果はあるのだろうか。トランスの行った調査で役員層と従業員の意識の違いが明らかになった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.