自覚がないまま、「昭和なマネジメント」で社員を苦しめていた――地方都市の社長が「働き方改革の失敗」に気付くまで:働き方改革を阻む「抵抗」「不安」「失敗」との戦い方(1/3 ページ)
新しい働き方の会社を作ったはずなのに、自覚がないまま「昭和なマネジメント」をしていた――。なぜ、こんなことが起こってしまったのか。
「働き方改革をやってよかった、と考える企業は少ない」――。3月14日、リクルートマネジメントソリューションズの組織行動研究所研究員、藤澤理恵氏が発したこのコメントに共感した人は、少なくないのではないだろうか。
安倍政権下で「働き方改革」が国策となり、法改正も含む見直しが進んだ結果、企業は働き方改革の推進を余儀なくされている。しかし、企業によっては「残業抑制」「女性活躍」「リモートワーク」といった部分的な施策が一人歩きしているケースも少なくない。そんな“名ばかり働き方改革”の様相を呈した社内の状況に、むしろ現場からは「働きづらくなった」という声が上がることもある。
働き方改革は本来、ITの急速な進化に伴う「ビジネスモデルの変化」に対応するための取り組みであり、「これまでの常識を疑い、企業としてのビジョンを問い直し、組織の在り方を見直す」という「痛みを伴う施策」なしには成立しない。
そこには経営者の「強烈な危機感と強い覚悟」が必要であり、変革を成し遂げるには数年単位の時間がかかることを経営サイドが覚悟しなければならない。多くの企業で働き方改革が進まないのは、トップが覚悟を持てないことや、改革に時間がかかることが理解されないことに尽きるだろう。
そんな苦難の道に挑戦し、長い年月を費やして新しい働き方にシフトしたのが、静岡県浜松市でリージョナルHR事業を営むNOKIOO(ノキオ)だ。同社の代表取締役を務める小川健三氏は、Uターンして起業したNOKIOOを、創業から2〜3年目に“自分でも気付かぬうち”に「働きがいのない会社」にしてしまった経験を持つ。
本記事では、長期にわたる試行錯誤の末に、働き方改革を成し遂げた小川氏に、働き方改革の専門家として知られる沢渡あまね氏がインタビューを敢行。働き方改革を進める上での苦労や葛藤、その過程で生まれた共創の取り組み、改革の成果について聞いた。前編では、NOKIOOの働き方改革が失敗した原因に迫る。
- 前編:自覚がないまま、「昭和なマネジメント」で社員を苦しめていた――地方都市の社長が「働き方改革の失敗」に気付くまで(本記事)
- 中編:試行錯誤の末に見えてきた「働き方改革に欠かせない」5つのポイント
- 後編:残業時間は半減、社員一人当たりの売上は15%増――「働きがい重視の改革」が結果につながる理由
大企業のレガシーな働き方に疑問、Uターンして起業へ
沢渡: 小川さんは、どんなきっかけで「働き方」について考えるようになったのですか。
小川: 最初に働き方について考えたのは、就職した大手SIerの働き方に違和感を覚えたことがきっかけでした。同期が700人もいるような昔ながらの大手IT企業で、当時はお堅いクライアントさんの案件を担当していました。ヒエラルキー型の組織構造で、扱っているシステムもレガシーでしたね。
この会社で働いているときに、もやもやする気持ちを抱えていたんです。5〜10年スパンで重厚長大なシステムを作る仕事だったのですが、その仕事を長年、手掛けているうちに、皆が事業部の中のルールや文化の中に染まり始めて、だんだん内向きになっていくんです。
「その中で正しく振る舞うこと」を美徳と考える上司や先輩を見ているうちに、「何かがおかしい。おかしいはずだ。でも、僕はこれから5年、10年ここにいると、おかしいと思えなくなるだろう。それはまずいぞ」と思ったんです。
大学を卒業して、ワクワクする思いを抱いて新卒社員として大企業に入社したわけですが、「社内政治をうまくこなしてステップアップしながらキャリアを築いていく」ことに興味が持てなくて、自分のキャリアや仕事の仕方を、「レガシーな組織にゆだねずに、自分で決めたい」と思ったんです。それ以来、人事異動が発令される前に、自分で「次はこのステージ」と決めて動くようにしてきました。「小川君はこの部署に行って、これをやって」と言われて異動するようなことは、避けてきたのです。
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