それでも“インフルエンザ出社”がなくならないワケ くだらない「武勇伝」づくりはもうやめよう:「迷惑」と伝える勇気(3/3 ページ)
インフルエンザが流行する季節になった。その感染力の強さから、り患した場合には自宅で静養することが望まれる。学校などでは出席停止の措置が義務付けられており、熱が下がったからといってすぐに登校できるようにはならない。一方、職場では「季節性インフルエンザ」に関する明確な規定がない。そのため、インフルエンザになっても無理を押して出社する人も少なからず存在する。また、熱が下がれば「すぐに出社しないと」といった空気も存在する。なぜ、はた迷惑な「インフル出社」が起こってしまうのか。
インフル出社はくだらない「武勇伝」探し
いったい自分は何をしたいのだろう。自分は何を成すためにこの世に生まれたのだろう……。
このように、「自分はいったい何者なのか」を探す旅のことを「自分探しの旅」と呼ぶ。どちらかというと人生に迷いを感じる若者が、このような旅に出かけたくなるようだ。一方、私のような世代(50代)が出かけたがるのは、「武勇伝探しの旅」である。例えば、
「俺が20代のころは、胃に大きな穴開けても、徹夜して仕事したもんだよ」や「インフルエンザにかかっても、お客さまの接待で朝まで付き合ったなあ」とか。あるいは「東海豪雨のときだって、膝上まで水につかった状態でお客さまのところへ営業に行ったよ」というような「武勇伝」だ。
そして、こんな話が飲み会の席で出てくると、当時のことを知っている部長や課長たちは、こぞって「あのときは大変でしたなァ」「もう二度とあんな思いはしたくありませんわなァ」みたいなことを言って、「わっはっはっは」と盛り上がる。ところが、散々盛り上がったあと、武勇伝ネタが尽きてくるころに出てくるのが、決まって寂しげな愚痴だ。
「それに比べて、今の若いもんときたら」
「先日も、インフルエンザにかかったとか言って、5日間も休んでましたよ」
「誰が?」
「去年入社したA君ですよ」
「あいつか。最近の若いもんは、こらえ性がない。たかがインフルエンザぐらいで」
と、こうなる。
時代錯誤感がすさまじいが、実際にこのような感覚の中間管理職は「絶滅危惧種」ではない。それどころか、まだまだたくさん存在する。だから、20代の若い人ならともかく、まだこのような感覚を継承している30代、40代ぐらいの中堅なら、武勇伝探しのために「インフルエンザ出社」も辞さないだろう。
インフルエンザでなくても、37、8度ぐらいの熱ならば頑張って出社する。「こじらせるから、家で寝てなさい」と言っても、聞かない。「武勇伝大好き世代」の上司が、
「38度の熱を出しても、出社してくる。あいつはたいしたもんだ!」
と評価しようものなら、ますます図に乗るだろう。周囲のこのような視線がある限り、自分も武勇伝の1つや2つは欲しいという、くだらない「武勇伝探し」はなくならない。
周囲はどのように言うべきか?
私は19年10月、超大型台風19号が関東地方に直撃する日の朝、次のような記事を書いて「出社自粛」を呼びかけた。
超大型台風の襲来、JRの計画運休、それでも社員を出社させるべきか?(Yahoo! ニュース)
なぜか。記事に書いた通り、不要不急の社員が無理して出社すると、「迷惑」だからだ。警察や医療従事者、自治体に勤める公務員など、どんなに非常事態でも出社すべき方々が、スムーズに移動できなくなる。
一般企業が非常時の出社を個人任せにしておくと、「困難な状況でも会社に尽くす自分」という姿を演じたくて、周囲の迷惑をかえりみずに出社してしまう。だから自粛を呼びかけた。
インフルエンザ出社もそうだ。決して、周りは「こんなにすごい台風なのに出社するなんてエラい!」という印象を抱くべきではない。もちろん、上司も「台風といっても、この程度なら出社しろよ」と命令してはならない。
流行を少しで和らげ、社会的責任を果たすためには、本人任せにせず、会社が断固とした態度でメッセージを出すことだ。部下に対しては、
「君が出社するとオフィスにおける感染リスクが高まり、会社が迷惑だ」
などと、ハッキリ言うべきなのである。
多くの場合、当人は、「よかれ」と思って会社に行こうと思っている。だから、なかなか言いづらい気持ちは分かる。しかし時代は変わったのだ。心を鬼にして、言いきらなければならない。「迷惑なんだ」と。
著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ)
企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。
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