NHK大河ドラマ「麒麟がくる」に登場 将軍よりも関白の権威を政治に利用した豊臣秀吉:征夷大将軍になり損ねた男たち【中編】(2/2 ページ)
織田信長、豊臣秀吉、明智光秀……。武家の最高位「征夷大将軍」の座を逃した歴史人物に学ぶ組織に生きる現代人に役立つ教訓をお届けする。第2回目は関白の権威を天下統一に利用した豊臣秀吉を取り上げる。
武家関白として天下に君臨した豊臣家
天正13年3月、秀吉は正二位内大臣に叙任され、7月の四国討伐の最中に、前関白である近衛前久の猶子となった。それまでは信長のように平氏を称していたが、藤原氏になって関白太政大臣となった。
やがて天下を統一して武家の棟梁にもなった秀吉は、朝廷と武家の両方のトップに立つ武家関白制を作り上げた。さらに正親町天皇から、源平藤橘の既存の氏の他に豊臣姓を下賜され、秀吉は天正14年から氏を「豊臣」と改めた。
慶長3年(1598)5月、豊臣秀吉は病に倒れた。後継者の秀頼はまだ6歳で、秀吉は巨大な勢力を持つ徳川家康の存在に、豊臣氏の将来に不安を持ちながら死去した。
朝廷では秀頼の誕生以来、秀頼を摂家である豊臣氏の後継者と見なしていた。慶長5年9月の関ヶ原の戦い後は徳川家康に権力が移ったが、朝廷内での秀頼の位置付けは生前の秀吉同様の礼遇をされて、関白になり得る存在として変わらなかった。
実は将軍秀忠より地位が高かった秀頼
秀頼は徳川氏と対等性を維持し、秀頼の家臣は徳川将軍の直参と同等とされていた。その後も秀頼は順調に昇進し、慶長7年4月には従二位に叙され、権中納言に任じられた。
中将から参議を経ずに中納言に任じられたのは、豊臣家が摂関家であることを明示している証であった。朝廷も豊臣政権の復権を望んでいたのであろう。
慶長8年に徳川家康が右大臣に昇進したことで、欠員になった内大臣に秀頼が任じられ、慶長10年に家康が右大臣を辞任したことで右大臣になり、秀頼の後任の内大臣には家康の嫡子秀忠が就任した。朝廷での地位は、家康が秀頼より一歩先をいったが、秀忠は秀頼の下位にいたのである。
このことから豊臣氏は、やがて家康から政権を戻されるものと思ったようだ。だが家康は、慶長10年に秀忠に将軍職を譲り、豊臣氏の期待を断ち切った。
慶長16年3月、秀頼は「正室千姫の祖父に挨拶(あいさつ)する」という名目で上洛し、家康と京都二条城で会見した。この会見は秀頼が家康への臣従を意味するとされたり、秀頼が家康との対等性を維持したと見られたりと見解が分かれている。だが、家康は秀頼の並外れた体躯を見て、豊臣家を滅亡させる決意をしたとされる。
高齢の家康は、強引に豊臣氏との戦いに持ち込んだ。豊臣方が家康からの難題をうまくいなして家康の死を待てば、秀頼対秀忠の対決では豊臣氏恩顧の大名もいることから、徳川政権を転覆できないまでも、徳川氏にある程度の主張を受け容れさせることができたかもしれない。だが、家康に運があったようで、豊臣氏を滅亡させた翌年に死去している。
著者プロフィール
二木謙一(ふたき・けんいち)
1940年東京都生まれ。國學院大學大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。専門は有職故実・日本中世史。國學院大學教授・文学部長、豊島岡女子学園中学高等学校校長・理事長を歴任。1985年『中世武家儀礼の研究』(吉川弘文館)でサントリー学芸賞(思想・歴史部門)を受賞。NHK大河ドラマの風俗・時代考証は「花の乱」から「軍師 官兵衛」まで14作品を担当。主な著書に『関ヶ原合戦』(中公新書)、『徳川家康』(ちくま新書)など多数
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