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ドコモ代理店「クソ野郎」騒動に潜む、日本からブラック企業がなくならないそもそもの理由労働環境を悪化させる“ブラック乞客”とは(5/5 ページ)

NTTドコモ代理店で起こった「クソ野郎」問題が新年早々大きな問題になった。代理店運営の兼松コミュニケーションズだけでなく、NTTドコモも謝罪文を出す事態に。問題の真相はどこにあるのか。労働問題に詳しい新田龍氏はに“ブラック乞客”の存在を指摘する。

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顧客と協議を行い、ブラックな環境が改善したケースも

 弊害はそれだけではない。ブラック乞客の要求に従って長時間労働してしまうと、適正な利潤を提供してくれる優良顧客への対応に十分な時間を割けなくなってしまう。そうすると仮に売上は確保できても利益は低下し、労働時間に見合った給与も払えなくなり、大切な従業員のやる気まで削がれてしまうだろう。

 そのためには、自社でできる範囲とできない範囲を明確に切り分け、顧客に説明して納得してもらい、かつ納期や仕様の面で協力してもらうことだ。実際、長時間労働が常態化していた運送業者が荷主と協議をおこない、「配送ルートや集配場所の見直し」「出荷作業に荷主が協力」などを実現した結果、残業が削減できた事例もある。

 顧客がそれ以上の対応を求めるなら対価を請求すべきであるし、それでも理不尽な要求を押し付けてくるようであれば、無理な要求をしない優良顧客を開拓していくしかない。

 例えば、福岡市早良区の建設資材リース会社「拓新産業」は、不人気で就職希望者が集まらなかったことに危機感を抱き、30年以上前から労働環境改善を続けている。業界的に「残業しない」「休日は仕事を受けない」ことを貫くのは困難であったが、取引先を回って理解を求めた。また、売上の2割を特定の1社に依存する状態だったが、「無理な注文を断れなくなるから」との考えで新規取引先を開拓し、今では約200社から広く薄く仕事を受けるやり方に改めた。同社創業者の藤河次宏氏は、こうした働き方ができるようになったのは「お客さまは神様」という考えを捨てたから、だと語っている。

【参考】福岡の建設資材リース「拓新産業」、社員満足主義で就職希望殺到(産経新聞)

 見かけの売上だけに左右されることなく、相手は理不尽な要求をしてくるブラック乞客なのか、お互いに敬意を払って仕事ができる優良パートナーなのかを見極めて取引したいものである。少なくとも、「取引先に理不尽な要求を突きつける顧客は『ブラック乞客』だ」という認識を世の中に広げていきたい。それが当たり前になれば、利益を産まない無駄な残業も、あり得ないようなクレーマーも消滅していくことだろう。

著者プロフィール・新田龍(にったりょう)

働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役/ブラック企業アナリスト

早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。労働環境改善による企業価値向上のコンサルティングと、ブラック企業/ブラック社員関連のトラブル解決を手掛ける。またTV、新聞など各種メディアでもコメント。著書に「ワタミの失敗〜『善意の会社』がブラック企業と呼ばれた構造」(KADOKAWA)他多数。


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