小泉進次郎氏が叫ぶ「空気を変える」はズレている 男性育休が増えない真因:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/5 ページ)
小泉進次郎環境相の「育休宣言」が話題になっているが、「空気を変える」と政治家が連呼することには違和感がある。確かに育休を取りづらい空気はあるが、それだけではない。男性が育児をするための「時間」を増やす政策が最も必要なのではないか。
「どうしてその空気があるのか」は説明できない
山本氏は「空気に影響された意思決定の論理は、事後になっても合理的に説明できない」と説きます。つまり、空気は目に見えないので、暗黙の了解です。「みんなそう考えている」ということを前提に成り立っているので、その空気に「あの空気、やだね」とか「ああいう空気は変えたいよね」といった異論・反論を唱えることはできるけど、「何を根拠に、どうしてその空気があるのか」を論証するのは極めて難しいというのです。
著書では、戦艦大和を出撃させるという意思決定を下した旧日本軍の例をもとに説明しています。当時の連合艦隊司令長官はこの意思決定について、「私は当時ああせざるを得なかったと答えうる以上に弁そ(言い訳)しようと思わない」と発言。3000人もの命が失われるリスクを分かっていながら、論理的思考に基づくものでも、科学的根拠を参考にしたわけでもない。ただただ「そうするしかなかった」と、極めて感覚的な決定だったことを認めているのです。
山本氏はこのような感覚を「臨在的把握」と呼び、「目には見えない何かが、あたかも実際に存在しているかのように感じること」としています。そして、空気の「内の人」はどんなにそれが非合理でばかげたものでも、その空気に流されるというわけです。
「空気」の研究は、40年以上前に書かれた一冊です。しかしながら、上記の説明を読めば分かる通り、いまだに日本社会のあちこちに「空気に影響された意思決定」がはびこっている。現代の日本社会を説明しているように感じるのは、空気がその土地の文化に深く深く根付いていて、よほどの荒療治を施さない限り根が絶えることはない、実に厄介な代物であることが分かると思います。
さて、育児休暇の問題に戻りましょう。念のため繰り返しますが、私は「空気を変えようとする人」を否定する気は毛頭ありません。しかし、本当に空気だけなのか? と問いたいのです。
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