イチゴが近づいてくる! 農業を救うかもしれない「自動化」の現場を探る:効率化、新規参入につながるか(1/5 ページ)
農業の現場は高齢化や人材不足に陥っている。その解決に役立つと期待される技術が「自動化」だ。イチゴが動くことで収穫の作業負担を軽減する「イチゴ移動栽培装置」、経験がなくても適切な水やりができる「自然給水栽培装置」。この新しい技術を佐賀の現場で体感した。
日本の農業が苦境に陥っている。全国各地において、農業で働く人の高齢化が進んでおり、後継者難や労働力不足の懸念が広がっている。
農林水産省によると、農業就業人口は2019年2月時点で168万人。10年間で約100万人も減少している。さらに、65歳以上の高齢者が70%を占めている状況だ。
そのため、農業の現場では「作業の効率化」や「人材確保」が大きな課題となっている。高齢化と人手不足がさらに加速すれば、重労働が多い作物の栽培は維持できなくなってしまう。若い世代の新規就農のハードルも高くなる。そういった課題を解決する取り組みとして注目され始めているのが、自動化やITなどの技術を活用した「スマート農業」だ。
自動化技術については、さまざまな農業用設備において実用段階に入っている。その提案を強化しているのが、農業設備の設計・施工やアフターサービスなどを手掛けるヤンマーグリーンシステム(大阪市)だ。同社は、イチゴの収穫やトマトの水やりに自動化を取り入れたシステムの提案を始めた。自動化によって何が変わるのか。佐賀県の現場で探った。
イチゴが動いて手元に来る「イチゴ移動栽培装置」
ビニールハウスの中には、イチゴの苗が隙間なく植えられている。実をつけている位置は人の腰の高さだ。苗の列は少しずつ動いていて、端に立っている作業者のもとへと近づいていく。作業者は最前列に来た真っ赤なイチゴの実をつみ、次の列が目の前に来るのを待つ――。
従来のイチゴ栽培とは全く異なる光景が広がっているのが、佐賀県みやき町にあるジェイエイビバレッジ佐賀のビニールハウスだ。
広さ約20アール(2000平方メートル)のビニールハウスの中には、イチゴの苗の列(ベンチ)が560ある。それらが1分弱の間隔でスライドしていくことで、作業者は移動することなくイチゴの収穫ができる。この設備が、人ではなくイチゴが動く「イチゴ移動栽培装置」だ。
この装置は何年もの研究や試験を経て、19年に全国で初めてジェイエイビバレッジ佐賀で実用化された。この設備では「さがほのか」を栽培し、初収穫を迎えている。
なぜ、イチゴ栽培でこのような装置が必要なのか。それは、イチゴは栽培の負担が大きい作物だからだ。
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