イチゴが近づいてくる! 農業を救うかもしれない「自動化」の現場を探る:効率化、新規参入につながるか(2/5 ページ)
農業の現場は高齢化や人材不足に陥っている。その解決に役立つと期待される技術が「自動化」だ。イチゴが動くことで収穫の作業負担を軽減する「イチゴ移動栽培装置」、経験がなくても適切な水やりができる「自然給水栽培装置」。この新しい技術を佐賀の現場で体感した。
収穫量は1.3倍に イチゴが動く装置とは?
イチゴの年間作業時間(10アール当たり)は2092時間。ナスやミニトマト、キュウリ、メロンなど、他のハウス栽培の野菜と比べて労働時間が長い。ピーマン、キュウリ、大玉トマトと比べると、約2倍の作業時間が必要となる。親株から苗を育てる作業、植え替える作業、ビニールをかぶせる作業など、収穫までには毎年多くの工程を経なければならないからだ。また、屈んで作業する土耕栽培も多く、特に高齢者には負担が大きい。
そこで、主に収穫の作業負担を軽減するために考案されたのがイチゴ移動栽培装置だ。この装置では、ベンチの縦移送と横移送によってイチゴの列が動いていく。ベンチは2列になっており、あるベンチが縦移送で端まで来ると、横にスライドして、逆方向へ再び縦移送を始める。最終的にハウス内を1周する。作業者は作業スペースに立って、最前列に来たイチゴを収穫する。
取材時は、数人のスタッフが立ったままの状態で赤くなった実をちぎり、近くにあるかごに入れる作業を繰り返していた。動く範囲は2〜3メートルで、屈んだり長い距離を歩いたりする様子はない。
この装置には潅水(かんすい、作物に水を与えること)や防除(病害・虫害を防いだり除いたりすること)を行う場所もある。イチゴがそこを通過するときに、水や農薬を振りかける仕組みになっている。装置が1周する間に収穫や手入れを完了させることができる。
「この装置なら、人が通るための通路を作る必要がない。よりたくさんの苗を植えることができ、収穫量アップにつながる」と、ヤンマーグリーンシステム園芸施設部部長の兼崎雅弘氏は説明する。初収穫のシーズンが終わっていないため、収穫量は比較できないが、14年に実施した実証実験の結果から、従来の土耕栽培の1.3〜1.4倍の収穫量が見込めるという。
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