退職しない、できない日本 「井の中の蛙」化で昇給額も低水準:退職は「権利」(2/3 ページ)
アジア5カ国、地域で行った雇用実態の調査が発表。日本の昇給額は低水準だった。部長クラスの年収では、中国に2倍の差をつけられるケースも。昇給額も給与も低い理由の1つは退職しない、できない点に?
退職しないし、できない日本
なぜ、日本の昇給額や給料はここまで低いのか。
調査では、「転職する理由」も対象者に聞いた。すると、各国と比較して日本だけ“特異”な結果が明らかとなった。日本以外の4カ国、地域では「給与」と答える人が最も多かったのに対し、日本では「新たな挑戦」と答えた人が最も多く、56%だった。「給与」と答えた人は54%。
しかし、この結果から日本の労働者が給与よりも「挑戦」を重視しているため、昇給が抑えられているとは言い切れない。同社が以前に行った、労働者のリテンションに関する調査で「転職しない理由」を聞いたところ、日本の労働者が最も多く回答した理由は「Salary or benefit package(給与、または福利厚生)」。日本は「建前の社会」といわれることもあるが、労働者の本音としては「お金」や実利もやはり大事なようだ。また、少しずつ「実力主義」が浸透しつつあるとはいえ、日本企業は依然として「年功序列」の給与体系が多い。転職することと、現職に残って徐々に給与が上がっていくことを比較して後者を選ぶ“保守的”な人が多いこともうかがえる。
今回行った別の設問では、「自らのスキルが5年後も通用するか」という質問に対し「はい」と答えた割合は日本が最も高く、72%。自信があることは良いことなのかといえば、そうでもないようだ。担当者は「日本は『学ぶ』という意欲を持つ人が少ない。年功序列のレールに乗って昇給することが約束されていることが多いので、学ぶ必要がないともいえる。だから、別に学ぶ必要もない、という意味で自信を持つ人が多いのではないか」と分析する。つまり“井の中の蛙大海を知らず”ということだ。
年功序列で給料が上がるので、会社に居続ける。新しいスキルを身に付けても、会社では評価されないことが多いので特に新しいことを学ぶ意欲も必要もない。そうなると、人材としての市場価値も上がらず、転職もしない(できない)。さらに、労働者は社外の給与事情を知らないし、本音は押し隠してお金のことをあまり口に出さない。つまり、自分がこの先どのくらい給料をもらえるのかも分からない。そうなると、昇給や給与を抑えても経営者の痛手にはならない――。こうしたことは以前から指摘されている「日本式雇用慣行」の問題点でもあるが、これ以外にもある日本の“特異性”を担当者は挙げた。
関連記事
- 課長の平均年収は932万円、部長は? 外資との「格差」も明らかに
日本で活動する企業の報酬状況が発表。日系企業と外資系企業合わせて679社が参加した。調査結果では課長職や部長職の平均年収も明らかになった。日系企業と外資系企業の報酬格差も合わせて発表し、特に役職者以上で顕著な開きがあった。 - 「給与を上げれば退職者は減る」は本当か 経営層の考える「退職対策」と現場の乖離(かいり)が明らかに
「給与を上げれば退職者が減る」と考える会社役員は多い。しかし、給与の上昇は本当に退職率を下げる効果はあるのだろうか。トランスの行った調査で役員層と従業員の意識の違いが明らかになった。 - 日本企業は「経歴」や「資格」より「ポテンシャル」を重視して採用せよ 外資系人材会社が提言
英人材会社が、世界34カ国・地域を対象にした人材市場の調査を発表。世界全体のスコアは前回調査と変わらず、毎年続いていた人材不足に歯止めがかかった形。一方で、日本のスコアは若干上昇し、前回よりも人材不足が悪化した。日本企業の人材ミスマッチ度は世界ワースト2位だった。 - 内定辞退セットに賛否両論 心のこもった「就活謎マナー」が企業にとっても大迷惑な理由
話題になった「内定辞退セット」。就活に関するマナーについての議論を巻き起こした。面接などの就職活動に、最低限のマナーは当然必要。しかし、その一方で、明らかに「ムダ」ともいえるマナーも中にはあるようで…… - 少なすぎる残業に要注意! 組織を崩壊させる「粉飾残業」のあきれた言い訳と手口
2019年4月に施行された働き方改革関連法案で、大企業を対象に残業規制の強化がなされた(中小企業は20年4月施行)。すると、今までは多すぎた残業が、今度は少なすぎるという問題が起きているという。残業規制をかいくぐる悪質な「粉飾残業」とは?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.