強いトヨタと厳しい日産:池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/6 ページ)
日本の自動車メーカーは調子が良いのか悪いのか、とくにここ数年中国の景気悪化が伝えられており、その影響が心配される。全体を見て、とにかくこの逆境下で強さに圧倒されるのがトヨタで、ちょっと言葉を失う厳しさに直面しているのが日産だ。スズキとマツダは日産を見るとまだ救われるが、下を見て安心していていい状況とは思えない。概要としては各社そろって、程度の差はあれど逆境である。
真の問題は中国市場
中国のバブル崩壊の影響が、今年の第3四半期までの数字にマイナスの影響を与えている。ただし、その影響は意外や壊滅的なものではない。というのも、中国で自動車販売の落ち込みが一番ひどいのは中国系メーカーなのだ。ドイツ、日本、韓国の各社はまだ直撃を受けていない(1月6日の記事参照)。この「まだ」が問題で、もし不調が日本のメーカーにまで及ぶともっと厳しいことになる。
また決算発表会では多くの記者が質問を繰り返していたが、第3四半期決算は12月までの累計であり、今大変な問題になっている新型コロナウィルス(COVID-19)の影響は織り込まれていない。
ニュースなどでは武漢の閉鎖が話題になったが、実態としては小さな行政区ごとに企業の営業をコントロールしており、例えばトヨタは延期されてきた春節を終え、ひとまず稼働体制に入った。ただし、これが一進一退しないという保証もない。上海駐在の友人によれば、長い駐在生活でも見たことがないほど街が閑散としているとのことで、ブランドストリートの店もほぼクローズドという状況らしい。
経済に与える影響は当然甚大なものになる。耐久消費財なので、買い換えが伸びたところで永遠には伸ばせない。そういう意味では、刈り取りのタイミングが変わるだけだが、決算はそれを待ってはくれない。常識的に考えて、今回発表された各社の通期見通しは、さらに厳しい結果になることがほぼ見えている。特に中国でのビジネスが大きいホンダと日産への影響はそれなりになるだろう。
ただし、それが日本の経済崩壊のようなことにつながるかといえば、おそらくそこまでのものではない。なぜなら中国の制度が結果的に日本の被害を半減してくれるからだ。
この連載ではすでに何度か書いてきたが、中国でクルマを売るためには、原則として中国でクルマを生産しなければならないし、そのためには現地資本と提携した合弁会社を設立しなくてはならない。その際、株式の過半(一般には51%)を中国側の企業が持つことになる。つまり利益が出たら51%は中国のものだが、赤字もまた51%は中国企業が負ってくれるというわけだ。だからプラスにせよマイナスにせよ、影響は限定される。
むしろ問題は、日本国内や中国以外の海外拠点での生産が継続できるかどうかにある。万が一、中国製の部品の供給がかなり長期にわたって生産が止まったり、輸送ができなくなったりすると影響は出てくるだろう。
日本の自動車メーカー各社は、関西大震災と東北大震災を契機に、かなりサプライチェーンの代替候補による冗長性確保を進めているが、その代替案を担う国まで感染が広がらない保証はないし、二次、三次のサプライヤーまで、そうした冗長性が確保できているかは疑わしい。そして残念ながら、クルマは部品がひとつ足りないだけで生産できないのだ。今後物流を制限される国がどのようになるかは全く見通せない。そもそも日本がそうした対象にならないという保証はない。
ここ1、2カ月でそのあたりが見えてくるだろうが、そういう厳しい現実を、利益率の厳しい各社が、どうやって切り抜けられるかは予断を許さない状態だ。
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