2015年7月27日以前の記事
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“お上”の指示でやっと広がる時差通勤と、過重労働を招くフレックスタイム――ニッポン社会の限界河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/4 ページ)

新型コロナウイルス感染拡大の不安が高まる中、テレワークや時差通勤を促進する行政機関や企業が増えてきた。通勤ラッシュのストレスを軽減する動きは広がってほしいが、日本人には「フレックスタイム」よりも「時差通勤」が必要ではないか。なぜなら……

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長時間通勤のストレス、年収40%アップしないと割に合わない

 例えば、英国の西イングランド大学が5年以上にわたって、通勤が英国の会社員2万6000人以上に与えた影響を分析した調査(Commuting and wellbeing、2014年に発表)では、

  • 通勤時間が1分増えるごとに、仕事とプライベート両方の満足度が低下し、ストレスが増え、メンタルヘルス(心の健康)が悪化する
  • 同じ通勤時間でも、徒歩もしくは自転車で通勤する人は、バスや電車通勤の人に比べ、プライベートに対する不満が少ない
  • 1日の通勤時間が20分増えると、給料が19%減ったのと同程度、仕事の満足度が低下する

 といったことが分かっています。

 また、ドイツの経済学者のブルーノ・フライ博士は、発表した論文(“Stress That Doesn’t Pay: The Commuting Paradox”, 2004)で、「長時間の通勤がもたらすストレスの高さは、年収が40%アップしないと割に合わない」と、賃金と比較して会社員の心情に寄り添っています。

 さらに、スウェーデンで暮らす18万人の夫婦を対象に行われた調査(“On the road: Social aspects of commuting long distances to work”, 2011)では、「1人のパートナーが毎日就労するのに少なくとも45分通勤するときに、カップルが離婚する可能性が40%高くなる」ことも判明してしまいました。

 通勤時間と離婚の関係を分析するとは、ワークライフバランスを重視する北欧らしい調査ですが、こういったエビデンスを鑑みれば、時差通勤は真っ先に取り入れるべき働き方改革であることが分かるはずです。


長時間の通勤がもたらすストレスについて、海外で多くの研究がある(写真提供:ゲッティイメージズ)

 これまでも「働き方改革」に対して苦言を幾度となく呈してきましたが、真の働き方改革とは、それまで見過ごされていたこと、仕方がないとされていたことを「みんなの問題」として考え、解決しようと努力すること。隠されてきた悲鳴を掘り起こし、「今まで当たり前」だったことを、「本当に当たり前なのか?」「本当に必要なのか?」と考えてみる。日常への小さな問いの積み重ねが「一人一人が輝く社会」につながっていきます。

 仕事やモノに人が合わせるのではなく、仕事がより効率的にできるように働き方やモノを変える――。この当たり前に気付かない限り、生産性が向上するわけがないのです。

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