NHK大河ドラマ「麒麟がくる」で注目! 「実質的な天下人」という道を歩んだ三好長慶:征夷大将軍になり損ねた男たち(2/2 ページ)
織田信長、豊臣秀吉、明智光秀……。武家の最高位「征夷大将軍」の座を逃した歴史人物に学ぶ組織に生きる現代人に役立つ教訓をお届けする。第4回目は細川晴元と覇権を争う三好長慶を取り上げる。
畿内を制し実質的な天下人となった長慶
京に将軍も管領もいなくなったことで、長慶は京での最高実力者となった。前将軍足利義晴は天文19年に死去。子の義輝と細川晴元は長慶からの和議を拒否。天文20年7月には将軍義輝と晴元が京に迫ったが、これを長慶の家宰・松永久秀が撃退した。
天文21年1月に、晴元は出家して氏綱に家督を譲り、長慶が晴元の子昭元を取り立て、将軍義輝が上洛する条件で長慶と和解。氏綱は13代将軍義輝の許に出仕し、長慶は義輝の供衆に列したが、幕府の権力を握るのは義輝でも氏綱でもなく長慶であった。
長慶は、山城、大和、摂津など畿内と淡路、讃岐、阿波を制し、周辺国に影響力をおよぼしていて、「天下人」と言ってもおかしくはなかった。だが、この時代に天下人を目指したのは織田信長だけだった。武田信玄や上杉謙信、三好長慶も将軍を補佐する地位までは考えても、それに取って代わる発想はなかったようだ。
長慶に織田信長のような非情さはなく、同じ相手と何度も戦いと和睦を繰り返すも、決定的に滅ぼすこともなかった。将軍義輝ともそうで、長慶は義輝と敵対と和解を繰り返していた。永禄元年(1558)に、義輝は細川晴元や奉公衆を率いて上洛を目指したが、松永久秀や三好三人衆(三好氏の一族・重臣)が軍勢を繰り出すと、和議を申し入れて、影の薄い将軍権威で幕府政治を再開している。
長慶は、三好之康(ゆきやす)、十河一存(そごうかずまさ)、安宅冬康(あたぎふゆやす)の弟たちに支えられていたが、永禄4年に十河一存が、永禄6年に嫡子の義興が22歳で死亡すると政務に身が入らなくなったようだ。永禄7年に安宅冬康を謀反の疑いで誅殺すると、その2カ月後の7月に河内飯盛城で42年の生涯を閉じた。
著者プロフィール
二木謙一(ふたき・けんいち)
1940年東京都生まれ。國學院大學大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。専門は有職故実・日本中世史。國學院大學教授・文学部長、豊島岡女子学園中学高等学校校長・理事長を歴任。1985年『中世武家儀礼の研究』(吉川弘文館)でサントリー学芸賞(思想・歴史部門)を受賞。NHK大河ドラマの風俗・時代考証は「花の乱」から「軍師 官兵衛」まで14作品を担当。主な著書に『関ヶ原合戦』(中公新書)、『徳川家康』(ちくま新書)など多数
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