安倍首相の根拠なき“英断”で浮かび上がる「階級社会・日本」の縮図:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/4 ページ)
新型コロナウイルス対策で始まった臨時休校に伴う保護者への補償について、企業の従業員と、フリーランスや自営業者の“格差”が議論になっている。今回の騒動で「階級社会」が表面化。アンダークラスの人たちがさらに苦境に立たされることになるかもしれない。
自分の“直感”を信じ込む権力者たち
権力で生じる「絶対感」に酔いしれた人が、稚拙で倫理にもとる行動をとり、リスクの高いおバカな決断をすることは、世界中の研究者たちが証明してきました。絶対感は「情報を処理する能力を著しく短絡的にする」という困った思考メカニズムを強めるため、絶対感に慢心する権力者は理詰めで正しい答えを熟慮する過程を経ず、自分の直感で物事を判断します。
そのため、どんなにリスクの高い決断でも、驚くほど楽観的。本人は「スッバらしい決断! こんなことオレ様しかできねーぜ!」と信じ込む。そして、自分の決断に反するものは排除し、一部の都合のいい情報だけをチェリーピッキングし、巧みに自己を正当化するなど、普通では理解不能なほどふてぶてしく行動します。
しかも、人間とは実に厄介な生き物で、そんなふてぶてしさに「やっぱリーダーシップあるな!」などと共感する心情も持ち合わせています。絶対感による負のスパイラル。本末転倒の決断が「英断」となり、批判する人と持ち上げる人が対立し、分断するというギスギスした空気が社会に立ち込めていくのです。
今回はしょっぱなからかなり辛口で突っ走ってしまいましたが、悲しいかな、新型コロナ拡大防止策はまさにこれ。“絶対感に酔いしれる権力者”によって社会が分断され、救うべき人たちが救われないという意味不明なことが行われているのです。
実際、3月9日の衆院予算委員会で安倍首相は「国内で陽性反応が出た人のうち、すでに快復して退院した人は3月7日時点で325人に上る。あまり報道されていない。しっかり発信したい」と、突如“実数”を言い始めました。
なるほど。これは「政府の根拠なきその場しのぎの“英断”で、社会全体がぐしゃぐしゃになっている」という批判をかわすためのチェリーピッキング……、いやいや、これ以上うがった見方をするのはやめておきましょう。
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