安倍首相の根拠なき“英断”で浮かび上がる「階級社会・日本」の縮図:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)
新型コロナウイルス対策で始まった臨時休校に伴う保護者への補償について、企業の従業員と、フリーランスや自営業者の“格差”が議論になっている。今回の騒動で「階級社会」が表面化。アンダークラスの人たちがさらに苦境に立たされることになるかもしれない。
“フリーランス礼賛”で進む「雇用する責任」放棄
それに拍車を掛けるのが、働き方改革の名を借りた、国の「フリーランス礼賛」と今国会で提出されている「高年齢者雇用安定法」の改正案、すなわち「企業に70歳までの就業機会確保を義務」にする法案です(今回は努力義務だが義務になる方針)。
政府は「70歳雇用」の選択肢として、現行の定年延長、定年廃止、契約社員などでの再雇用の3パターンに加え、「他企業への就職支援」「フリーランスとして働く人への業務委託による支援」「起業支援」「社会貢献活動などへの支援」の選択肢を提示。
健康機器メーカーのタニタが、社員が「個人事業主=フリーランス」として独立するのを支援する新しい制度を導入して物議を醸しましたが、どんなハサミも使いようで刃になります。つまり、悪知恵を働かせて「雇用する責任」を放棄しようと思えばどうにでもなる「企業の雇用する義務を放棄できる施策」がどんどん進められているのです。
「え? でも、それって若者には関係ないでしょ?」
こう思われるかもしれませんが、70歳まで働ける法律を厳しくすればするほど、シニアだけではなく、全ての働く人たちの雇用環境が厳しさを増す可能性が高いと覚悟した方がいい。
本来「会社」とは、単なる市場労働(働いて賃金を得る)の場ではなく、社会組織であり、共同体であり、そこで働く人たちが安全に暮らせるようにすることを最大の目的とする社会的リソースなのに、今回の新型コロナ対応を考えれば、悲しいかな「会社」の役割が変わっていくのです。
どうか国は「コロナ関連死」なるものが出ないよう、今からでも遅くないので徹底的な財政支援をしてもらいたいです。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)。2019年5月、新刊『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)発売。
お知らせ
新刊『定年後からの孤独入門』(SB新書)が発売になりました!
「定年ぼっち」に負けない生き方とは――?
職場や社会に居場所のないオジサンたち。定年前後の本当の不安は、お金や健康より「孤独」なのです。
現役時のニッポンの“カイシャ生活”にこそ、定年前後の「孤独化」の芽があります。健康社会学の立場から、組織の中における現代人の「ジジイ化」「オジサン化」現象を分析し、鋭いメスを入れてきた著者が、「定年」を境に居場所を失い孤独に陥りやすい人の特徴を分析し、そうならないための対処法をお伝えします!
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