「国民の皆さん、ひとつよろしく!」でいいのか 緊急事態に問われる“リーダーの言葉”:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/4 ページ)
4月7日に緊急事態宣言が出され、日常が変わりつつある。そんなときに重要なのが「リーダー」の言葉だ。正しい理解に基づく情報発信、受け手への共感性が信頼につながる。日本の政治家も、情報の透明性、共感性を持って発信し、安心感を与えてほしい。
緊急事態宣言が発出され、“日常”が大きく変わってしまいました。
中国の武漢から新型コロナの第一報が入った3カ月前、いったい誰がこんな事態を想像したでしょうか。ダイヤモンド・プリンセス号で感染者が広がった2月上旬、誰が「自分が感染するリスク」を気に掛けたでしょうか。いや、ほんの2週間前でさえ「コロナは他人事」と考えていた人は少なくなかったに違いありません。私自身、そうでした。
「もうすぐ終わる。連休明けくらいかなぁ」――などと思っていたのです。
「心はバイアスから逃れられない=確証バイアス」とは、心理学や社会学研究の常識ですが、私たちは物事を選択するとき自分に都合のいい情報を選ぶ“愚かさ”を持ち合わせています。
とりわけ緊急事態では情報を過小評価し、「自分は大丈夫」「自分には関係ない」と思いがちです。未来を想像する複雑な脳を持つ人間は、事態が厳しければ厳しくなるほど「心の安寧」を得ようと、“根拠なき楽観”にすがるのです。
その反面、心の片隅では、厳しい事態に直面したときに芽生えた「曖昧な不安」がじわじわと熟成されます。差別、罵倒、嫉妬、貪欲、猜疑、憎悪など、あらゆるネガティブな感情がうごめきます。矛盾しているように思うかもしれませんが、人の心はいくつもの感情が複雑に絡み合っているのです。
そのバランスが悪くなると人はストレスを感じるようになり、心身が疲弊します。慢性的にストレス状態にある人ほど感情の振れ幅が大きくなり、ちょっとした出来事をきっかけに命が脅かされるほどのダメージを受けてしまうのです。
そこで重要になるのが、“リーダー”のメッセージです。
リーダーの言葉が信頼できると無用な不安が取り除かれ、「心のゆがみ」を最小限に抑えた選択が可能になります。周りと協力して、違いに助け合い、皆でふんばります。ところが、リーダーの言葉が信頼できないと、さまざまなことに対し疑心暗鬼になり、利己的な行動に走りがちです。「自分より良い思いをしているやつが気に入らない」「あいつがあんなことするのは許せない」と、人間関係が汚染されていくのです。
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