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新型コロナで過酷さ増すトラック業界、「女性ドライバー」が期待ほど増えない理由世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)

新型コロナで過酷さが増している業界の一つが物流だ。人手不足と高齢化を解決するために女性トラックドライバーへの期待が高まっているが、国交省が2014年からキャンペーンをやっているのに増えていない。まずは「トラガール」という呼称から見直し、男性本位の文化を変えるべきでは。

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「男性本位」の文化を変えることから

 現在、トラック業界は新型コロナウイルスでさらに負荷が増している。オンラインショッピングや再配達問題などでますます人手が足りなくなる中、潜在的に労働力になり得る女性ドライバーにさらに期待が寄せられるのは仕方がないだろう。

 国交省の取り組みそのものは素晴らしい。時間をかけて、女性ドライバーを増やすべく公式サイトを作り、実際の女性ドライバーに話を聞いて、生の声を記事として紹介している。ただ公式サイトに「業界に華やぎを与える女性ドライバー」と書いてしまう男性本位な感覚は、明らかに時代に遅れている。お役所仕事と言ってしまえばそれまでだが、現状のままでは女性の心をつかむのは難しいのではないだろうか。

 もっと言えば、男性ばかりの職場環境ではセクハラは頻発するし、ナイーブな女性では通用しない。そんなイメージがトラック業界にはあるし、それが実態でもある。世の女性たちも、それは感じ取っているだろう。ならば、業界そのものが変わらない限り、トラック業界に女性ドライバーが増えることは見込めない。

 国交省がやるべきは、公式サイトにピンク色をちりばめることではなく、業界内で女性が働きやすいようにするために、従来の「男性」文化を一変させる取り組みをすることだろう。

 このプロジェクトの立ち上げは、まだ今ほどポリコレなどが叫ばれてなかった2014年のことで、もしかしたら当時は「トラガール」といってもそれほど違和感がなかったのかもしれない。ただ最近もコンテンツを更新しているので、そんな言い分も通用しないだろう。

 同省はこの取り組みについて「女性が働きやすい労働環境の整備、業界イメージの改善」が喫緊の課題であるとし、「細やかな気配りや高いコミュニケーション能力、丁寧な運転など女性ドライバーならではの能力発揮を通じた業界の活性化を図るべく、女性トラックドライバーの活躍に注目が集まっています」としている。

 私たちの生活を支えてくれている物流業界を活性化すべく、まずは「トラガール」という呼称から見直したほうがいいかもしれない。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。


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