SaaSとAPI連携がバックオフィスを変える理由:本当に効率を上げるためのSaaS(4/5 ページ)
日本企業では、1社あたり平均して20種類のSaaSを使っているといわれている。そのデメリットは、データが各SaaSに点在してしまい、管理や運用が煩雑になることだ。それを防ぐためにSaaS間の連携を行うための仕組みがAPIだ。APIによって外部のソフトウェアと簡単に連携できるからこそ、得意領域に特化したSaaSが増えている。
労務現場の「バラバラ管理」を一変させたSaaS
SmartHRは、社員の労務に関連する情報(住所、氏名、定期区間、扶養情報など)を管理し、社会保険の申請や各種手続きを行うための書類の作成をメイン機能としている。
労務管理SaaSという領域は、SmartHRが登場する前は存在しなかった。社員の情報は社内では給与計算ソフトや社員データベース、Excelなどでバラバラに管理されていて、申請書類などは労務担当者が都度作るか、社労士に依頼するのが普通だった。
社労士が使用するための専用ソフトは存在したが、専門家にしか使えない難解なものであり、社内と社労士でそれぞれ別々に社員情報を管理していた。
そこに非常に使い勝手がよく、多くの手続きがペーパーレスで完結する機能をもって登場したのがSmartHRだ。紙の書類があふれる非効率な業務を、SmartHRを使えば圧倒的に効率化できる。その勢いは凄まじく、リリースからわずか5年で導入は2万6000社を超え、まだまだ増え続けている。
SmartHRは一般の社員にも分かりやすい言葉使いや機能配置にすることで、スマホやPCから社員自身が引っ越しや結婚、出産などの申請を簡単に行えるようになっている。労務担当者がその申請内容を確認し、承認すればそのまま社員のデータは更新される。
手書きの社内申請書類もなくなり、労務担当者が改めてシステムに入力する必要もない。簡単に入力、申請、更新が行えるため、社員情報が正確に保たれ、更新された情報を使って社会保険の申請書を作成したり、給与計算ソフトに連携できる。
給与計算をするために必要なのは、基本給や通勤交通費などの給与情報だけではない。源泉所得税額と社会保険料控除額、住民税の特別徴収額を算出するために、住所、生年月日(年齢)、扶養配偶者や扶養親族の有無などのさまざまな情報が必要になる。
引っ越しや結婚、出産などのライフイベントが社員に発生すれば、それらを反映しなければならないが、これまでは情報収集から反映までかなりの手間と時間がかかっていた。給与計算ソフトは入力された情報を元に計算することはできるが、その情報を収集する機能はないからだ。労務担当者はそこにかなりのリソースを割かれていた。
SmartHRは、労務情報の収集や管理、社会保険の申請、年末調整時の書類と情報の収集に特化し、その機能を徹底的に磨き上げた。
労務という領域において最も非効率だった社員情報の収集や更新、管理に特化したことで大きな支持を得た。申請や処理がペーパーレス化することで、労務の現場は大幅に効率化した。
一方で、給与計算や勤怠管理の機能は持たず、APIで外部のソフトウェアに連携することで処理を行えるようにした。もし、SmartHRが自社で労務に必要な全ての機能を開発しようとしていたら、ここまで労務管理という分野を掘り下げることはできなかっただろう。
APIによって外部のソフトウェアと簡単に連携できるからこそ、得意領域に特化できたのだ。
関連記事
- マネーフォワードがSaaSビジネスのKPIを開示 19年11月決算
SaaSビジネスでは、顧客ごとに業績を分析するユニットエコノミスクを利用する。いったんユーザーを獲得すれば継続的に売り上げが生まれるSaaSモデルの特性から、企業全体の売り上げやコストというよりも、顧客あたりの、獲得費用、売上高(ARPA)、解約率(チャーンレート)によって事業を評価する仕組みだ。 - SaaSビジネスに必要なもの――スタートアップを助ける「三種の神器」
- freee“10倍値上げ”問題から考えるサブスクエコノミーの落とし穴
今週上場したfreeeの波紋が後を引いている。freeeが提供する法人向け会計サービス内容の改定が今月上旬に発表され、これが実質“10倍値上げ“になるとSNS利用者の間で解釈されたためだ。 - AIがライバルに!? 城繁幸さんに聞くHR Tech時代の人事サバイブ術
人事コンサルタントで作家の城繁幸さんがHR Techで日本の人事がどう変わるかを語った。AIが判断するため人事から人事権が無くなる一方、アナログな役割が重要になるとみる。 - “脱・紙文化”から始まる自治体の働き方改革
日本政府が国を挙げて推進している「働き方改革」。2018年6月には働き方改革関連法案も国会で可決・成立し、いよいよ改革に向けた動きが本格化し始めた。一方で、働き方改革がなかなか進んでいない職場もある。その背景には、“紙文化”から脱し切れていない従来型の働き方があるという。そんな状況をガラリと変容させ得るソリューションが、ワコムから提供されている。今回そのソリューションが自治体の働き方をどう変革するのかを見ていきたい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.