「電車通勤」の歴史と未来 ITとテレワークで“呪縛”は解けるか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)
新型コロナウイルスの感染拡大によってテレワークが広がった。外出自粛から解放されたときにはどうなるか。それは「電車通勤」の在り方に関わる。長時間の満員電車が当たり前というのは“呪縛”だ。電車通勤が根付いた歴史を振り返ってみると……
ITで「通勤」は変わる、しかしその歩みは遅い
新型コロナウイルス感染防止のための外出自粛と、テレワーク、ビデオ会議の普及は「通勤」を考え直すきっかけになったと思う。ただしそれは、「もう通勤は要らない」と「やはり通勤したほうがいい」の2つに分かれる。快適にテレワークを実行し、成果を出せた人は「通勤しないスタイル」を選ぶ。その一方で、多くの人々の「在宅実験」によって、テレワーク、ビデオ会議の欠点も明らかになった。その一つがVPN環境だ。
本誌をご覧の方には釈迦に説法だけど、VPNはデータの送受信で暗号化と復号を繰り返す。これは在宅勤務者のPCにとって無視できない負荷となる。PC、回線速度、サーバの性能が低いと、社内でLANに接続した時よりイライラする。これは精神衛生上とても良くない。在宅勤務者のPCや回線をグレードアップする必要がある。これは会社側のサーバも同様だ。今までは少数が使っていたVPNを多くの従業員が使うから、やはり機器のグレードアップが求められる。VPNのサポート要員も増やす必要がある。
4月27日付の日本経済新聞「情報漏洩防ぐ『VPN』逼迫 在宅勤務の拡大阻む」によると、テレワーク需要の急増にもかかわらず、ネットワーク増強のため機器が足りない。もしくは、新規需要に対応できる技術者が足りないという。また、クラウド会計サービスを提供するfreeeは4月27日に「中小企業社員の64%はテレワークを許可されていない」という調査結果を発表した。紙の書類や印鑑業務のために出社する必要もある。機器不足だけではなく、企業文化を変えていく必要がある。
外出自粛が長引く中で、ITの投資と企業文化の見直しは行われるけれども、時間がかかるだろう。見直される企業文化の中には「ペーパーレス」「電子印鑑」と同じくらい「電車通勤」も検討に値する。ITの投資費用と通勤手当の費用のバランスを考慮する時代が来る。
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