テレワークを阻む「ハンコ文化」は政府の“太鼓判”で消え去るのか?:働き方の「今」を知る(2/5 ページ)
新型コロナの影響で導入が進むテレワークだが、それでも出社しないといけない環境を生み出しているのが「ハンコ」だ。もともと、無駄が多く生産性の低い「日本的」な労働慣行の代名詞でもあったハンコだが、従業員の感染リスクを減少し、生産性を高めるためにも官民でようやく「電子化」の機運が高まり始めている。
ハンコが使われるようになったのは、いつから?
全日本印章業協会によると、日本において本格的にハンコが用いられるようになったのは、701年に大宝律令が制定され、同時に公文書に公印として押される「官印」が導入されてからだという。江戸時代以降は行政文書にとどまらず、経済活動の発展に伴って私文書にもハンコを押す習慣が広がり、商取引、貸証文、個人保証に至るあらゆる証書書類にハンコが用いられるようになった。ハンコの重要性が高まるに伴い、実印登録のための印鑑帳が作られるようになったり、他人のハンコを勝手に使用、偽造する者に対する刑罰として、重いものとしては「市中引き回しのうえ獄門晒し首」というものまで設けられたりしていたらしい。
明治政府は当初、欧米諸国に倣って署名制度を導入しようと試みたが、事務の煩雑さや当時の識字率の低さを理由に反対意見が相次ぎ、最終的に1900年、「商法中署名スヘキ場合ニ関スル法律」が成立。これによって法律上、押印に署名と同格の効果が与えられることになったのだ。その後は皆さまご存じの通り、署名よりも簡単に契約できるツールとしてのハンコが民間で普及していくことになる。この法律は、2006年5月1日に会社法が施行されるまで有効であった。
筆者は、行政や民間企業に対して「働き方改革」を提案して労働環境改善をサポートする専門家であるが、以前よりこの「紙とハンコ」の文化は業務効率化の大いなる壁であった。自社でいくらペーパーレス化を進めようとしても、取引先である官公庁や大企業が紙とハンコを要求してくる以上、全廃するわけにはいかないためである。
会議用の飲み物に、書類がいくつも必要
記憶する限り、官公庁で最も早期から働き方改革の取り組みを始めたのは総務省だ。省内の公募で集まった25人の職員による「総務省働き方改革チーム」が2018年1月に発足し、同年6月に開催された省内報告会には野田聖子総務大臣(当時)も臨席し、改革チームの官僚が幹部に対して耳の痛い話をズバズバ具申するという本気度を感じるものであった。
会中、改革チームメンバーからは「皆さんがお飲みになるペットボトルを準備するために、まずは書類を用意します。さらにその書類を3〜5つ関係部署に確認、承諾してもらい、ハンコをもらわなければいけないのです。これは本当に必要でしょうか? この時間があれば、本来の業務である政策の立案に時間を割けるのではないでしょうか?」との提言もなされ、「私たちが変わることで、きっと多くの省庁や地方公共団体、事業者が変わるきっかけにもなる」と熱く締めくくられたのであった。
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