“密”になるほどの人気で売り上げ絶好調 「ホームセンター」はコロナを機に復権できるか?:小売・流通アナリストの視点(4/5 ページ)
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、多くの業界に出された休業要請から辛うじて外れたホームセンター。緊急事態宣言下でも“密”となるほど多くの人が訪れ、多くの企業が売り上げを伸ばしている。今回のコロナ禍を機に存在感を発揮できるか。
ホームセンターはもはや、「おじさんの店」ではない
郊外の庭付き一戸建てを主なターゲットとしていたホームセンターは、大都市への人口集中と地方、郊外の人口減少と高齢化の進行に伴って、今後の成長が見込めない業態であるというのが一般的な見方だった。以下の図表は、業界団体のホームセンター市場規模推移なのだが、最近15年ぐらいは、店舗数は増えているのにもかかわらず、市場規模はほぼ足踏み状態が続いてきた。今後、マーケットは地方、郊外での人口減少とともに縮小していくと考えられており、既に地域有力企業同士の経営統合も進み始めていた業界であった。しかし、この飽和した業界に、コロナ禍は少しだけ時間をくれることになるかもしれない。
ホームセンターは、「不要不急」な商品売場の方が大きい。広い店舗内に陳列されている多種多様な商品の大半は、用途がよく分からなかったり、まれにしか用のないものがほとんどだ。ただ、立ち止まってよく見ると、「なるほど!」と感心してしまうような掘り出し物がそこここに置かれていることに気付く。平常時は、必要な消耗品だけを買ってそのまま帰る人も多いのだが、今回のような自粛期だと他に行くところもなく、家の中の整理や手直しなどをキッカケに、ホームセンターの店内を意図せずに回遊した人は多かったようだ。こうした人に、何らかの提案を伝えることができたホームセンターは、これから外出の選択肢に入れてもらえるかもしれない。
そうした生活提案に、以前から取り組んでいるホームセンターも実は少なくない。提案型ホームセンターの元祖(と筆者が思っている)ジョイフル本田は、「東京ドーム〇個分」と店の広さを表示するほどの超巨大店舗に、「ないものはない」といわれる品ぞろえで定評があり、1日いても見切れないと評判だ。
さまざまな家庭用品において、センスの良いプライベートブランド製品を開発して、それをさらにリーズナブルに提供するカインズの店は、業界の一歩先を行く製造小売り型ホームセンターともいえる。また、入り口が植物園と見まごうほど広いガーデニング売場で、奥に入れば吹き抜けから売場の場所を見渡せる、ビジュアルの素晴らしいハンズマンの店舗は、もはや売っているの商品なのか、それとも装飾なのか、分からないほどの完成度を見せている。ともすれば日曜大工などで「おじさんの店」と思われがちなホームセンター業界において、これらの店は、女性客の支持も高いというのだから大したものだ。
こうした魅力あふれるホームセンターは、前述の理由で、首都圏中心部にはあまり店舗が出ていない(ハンズマンは九州にしかない)。しかし、カインズやジョイフル本田は割と近い郊外にもあるため、県を跨いでの移動がフリーになったら、ぜひ物見遊山ついでにお出かけになってはいかがだろうか。ホームセンターが目的地、というのに違和感があれば、ぜひ、その近くの観光地に行く途中で立ち寄ることをお勧めしたい。一度見ていただければ、コロナ後に、リアル店舗も残っていく価値があると感じていただけると思うのである。
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